入《しいれ》をするのには田圃《たんぼ》を越《こ》えたり林《はやし》を通《とほ》つたりして遠《とほ》くへ行《ゆ》かねばならぬ。それでお品《しな》は其《その》途中《とちう》で商《あきなひ》をしようと思《おも》つて此《こ》の日《ひ》も豆腐《とうふ》を擔《かつ》いで出《で》た。生憎《あいにく》夜《よる》から冴《さ》え切《き》つて居《ゐ》た空《そら》には烈《はげ》しい西風《にしかぜ》が立《た》つて、それに逆《さから》つて行《ゆ》くお品《しな》は自分《じぶん》で酷《ひど》く足下《あしもと》のふらつくのを感《かん》じた。ぞく/\と身體《からだ》が冷《ひ》えた。さうして豆腐《とうふ》を出《だ》す度《たび》に水《みづ》へ手《て》を刺込《さしこ》むのが慄《ふる》へるやうに身《み》に染《し》みた。かさ/\に乾燥《かわ》いた手《て》が水《みづ》へつける度《たび》に赤《あか》くなつた。皹《ひゞ》がぴり/\と痛《いた》んだ。懇意《こんい》なそここゝでお品《しな》は落葉《おちば》を一燻《ひとく》べ焚《た》いて貰《もら》つては手《て》を翳《かざ》して漸《やつ》と暖《あたゝ》まつた。蒟蒻《こんにやく》を仕入《しい》れて
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