。偶《たま/\》抽斗《ひきだし》から出《だ》した垢《あか》の附《つ》かぬ半纏《はんてん》を被《き》て、髮《かみ》にはどんな姿《なり》にも櫛《くし》を入《い》れて、さうして弔《くや》みを濟《すま》すまでは彼等《かれら》は平常《いつも》にないしほらしい容子《ようす》を保《たも》つのである。それは改《あらた》まつて不馴《ふなれ》な義理《ぎり》を述《の》べねばならぬといふ懸念《けねん》が、僅《わづか》ながら彼等《かれら》の心《こゝろ》を支配《しはい》して居《ゐ》るからである。然《しか》し土間《どま》へおりて、襷《たすき》が掛《か》けられて、膳《ぜん》や椀《わん》を洗《あら》つたり拭《ふ》いたり其《その》手《て》を忙《いそが》しく動《うご》かすやうに成《な》れば、彼等《かれら》の心《こゝろ》はそれに曳《ひ》かされて其《そ》の聞《き》きたがり、知《し》りたがり、噺《はな》したがる性情《せいじやう》の自然《しぜん》に歸《かへ》るのである。假令《たとひ》他人《たにん》の爲《ため》には悲《かな》しい日《ひ》でも其《そ》の一|日《じつ》だけは自己《じこ》の生活《せいくわつ》から離《はな》れて若干《じやくか
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