しは往來《いきゝ》なしでさ、同胞《きやうでえ》だたあ思《おも》はねえからつてわし斷《ことわ》つたんでがすから、わし等《ら》嚊《かゝあ》死《し》んだ時《とき》だつて來《き》もしねえんですかんね、お内儀《かみ》さんさうえ者《もな》あ有《あ》りあんすめえね」
「さうだつけかね」
「わしや、※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、153−11]《あね》にや到頭《たうとう》小作《こさく》に持《も》つてくべと思《おも》つてたの一|俵《ぺう》ぺてんに掛《か》けられたことあんですから、自分《じぶん》のが始末《しまつ》すれば直《すぐ》返《けえ》すからつて持《も》つて行《い》つてそれつ切《き》りなんでさ、わし等《ら》嚊《かゝあ》生《い》きてる頃《ころ》なもんだから、嚊《かゝあ》とろつぴ催促《せえそく》に行《い》き/\したんだが、無《な》くつちや遣《や》らんねえからつて喧嘩《けんくわ》吹《ふ》つ掛《かけ》るつちんだから嚊《かゝあ》も忌々敷《えめえがし》がつて居《ゐ》たが先《さき》が不法《ふはふ》なんだから駄目《だめ》でさね、それ處《どこ》ぢやねえ、盲目《めくら》に成《な》つた自分《じぶん》の餓鬼《がき》の錢《ぜに》せえ騙《だま》して叩《はた》くんだから」
「盲目《めくら》といふのはどうしたんだねそれは」
「野田《のだ》へ醤油屋奉公《しやうゆやばうこう》に行《い》つてゝ餘《あんま》り飯《めし》食《く》ひ過《す》ぎたの原因《もと》で眼《め》へ出《で》たなんていふんですが、廿位《はたちぐれえ》で潰《つぶ》れつちやつたんでさ、さうしたらそれ打棄《うつちや》つて夜遁《よに》げ見《み》てえせまるで、自分《じぶん》の村落《むら》にだつて居《ゐ》らんなく成《な》つたんでがすから」
「さういふことがねえ、能《よ》く出來《でき》たもんだね、自分《じぶん》の本當《ほんたう》の子《こ》をねえまあ、おつたは酷《ひど》いといふことは聞《き》いちや居《ゐ》たがねえ」内儀《かみ》さんは驚《おどろ》いた容子《ようす》でいつた。
「そんだがお内儀《かみ》さん其《その》盲目《めぐら》奇態《きたえ》で、麥搗《むぎつき》でも米搗《こめつき》でも畑耕《はたけうねえ》でも何《なん》でも百姓仕事《ひやくしやうしごと》は行《や》んでさ、薄《うす》ら明《あか》りにや見《め》えんだなんていふんだがそんでも奇態《きたえ》なのせどうも、そんで極《ご》く堅《か》てえもんだから他人《ひと》にも面倒《めんどう》見《み》られて其《そ》の位《くれえ》だから錢《ぜに》も持《も》つてんでさ、さうしたら何處《どこ》で聞《き》いたか來《き》て騙《だま》して連《つ》れてつてね、えゝわしら等《ら》※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、154−10]《あね》せお内儀《かみ》さん」彼《かれ》は目《め》を峙《そばだ》てた。
「盲目《めくら》も有繋《まさか》お袋《ふくろ》だから畸形《かたわ》に成《な》つちや他人《ひと》の處《とこ》なんぞよりやえゝと思《おも》つたんでがせうね、さうしたらお内儀《かみ》さん盲目《めくら》が錢《ぜに》叩《はた》いつちやつたら又《また》打棄《うつちや》つて、聞《き》いて見《み》ちや酷《ひ》でえ噺《はなし》なのせ本當《ほんたう》に、そん時《とき》にや盲目《めくら》もわしが處《とこ》へ泣《な》きついて來《き》て、わしもはあ、二十先《はたちさき》にも成《な》つて幾《いく》らなんだつて騙《だま》さつるなんて盲目《めくら》ことも忌々敷《えめえましい》やうでがしたが、わしも其《そ》ん時《とき》や嚊《かゝあ》に死《し》なれた當座《たうざ》なもんだからさう薄情《はくじやう》なことも出來《でき》ねえと思《おも》つて、そんでも一|晩《ばん》泊《と》めて、わしも困《こま》つちや居《ゐ》たが※[#「穀」の「禾」に代えて「釆」、154−15]《こく》もちつたあ遣《や》つたのせ、わしやお内儀《かみ》さん嚊《かゝあ》おつ殺《ころ》してからつちものは乞食《こじき》げだつて手攫《てづか》みで物《もの》出《だ》したこたあねえんでがすかんね、そらおつうげもはあ斷《ことわ》つて置《お》くんでがすから、わしやお内儀《かみ》さん其《そ》れ丈《だけ》は心掛《こゝろがけ》てんでがすよ」勘次《かんじ》は内儀《かみ》さんの心裡《こゝろ》に伏在《ふくざい》して居《ゐ》る何物《なにもの》かを求《もと》めるやうな態度《たいど》でいつた。
「さうだともさね、さういふ心掛《こゝろがけ》で居《ゐ》さへすりや決《けつ》して間違《まちがひ》はないからね」内儀《かみ》さんはいつて更《さら》に以前《いぜん》からの噺《はなし》に幾《いく》らか釣《つ》り込《こ》まれて居《ゐ》るやうで
「そりやさうと其《その》盲目《めくら》はど
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