をして且《かつ》辛《つら》い厭《いや》なことでもいひ出《だ》されるかと案《あん》ずるやうに怖《お》づ/\いつた。
「どうしたつていふんぢやないが、此《こ》の間《あひだ》の晩《ばん》のことを知《し》つてるかね」
「何《なん》でがせうね、お内儀《かみ》さん」
「夜中《よなか》にあの蜀黍《もろこし》伐《き》らせたことだがね、實《じつ》はあの時《とき》はね、警察《けいさつ》の方《はう》が間《ま》に合《あ》はなければお前《まへ》に盜《と》らないと何處《どこ》までもいはして置《お》いて、さうして旦那《だんな》が歸《かへ》つてからのことと思《おも》つたもんだから、それにやお前《まへ》が白状《はくじよう》して畢《しま》つても困《こま》るし、自分《じぶん》の畑《はたけ》がそつくりして居《ゐ》ても不味《まづ》いからね、それも今《いま》に成《な》つちや何《なに》もそんなこと仕《し》なくつても善《よ》かつたやうなものだが、其《そ》の時《とき》は私《わたし》もどうかしてと思《おも》つてね、それだがおつぎが度胸《どきよう》のあるのぢや私《わたし》も喫驚《びつくり》したよ」内儀《かみ》さんはいつた。
「へえわしもおつうに聞《き》きあんした、鎌《かま》一|挺《ちやう》見《め》えねえもんだからどうしたつちつたら、お内儀《かみ》さんいふから伐《き》つたんだなんて、そんでも鎌《かま》は笹《さゝ》ん中《なか》に有《あ》りあんしたつけや」
「さうかい、どんな鎌《かま》だかおつぎは心配《しんぱい》して居《ゐ》たからね」
「なあにはあ、減《へ》つちやつた鎌《かま》だから惜《を》しかあねえんですがね」
「おつぎのことはそんなことでは無闇《むやみ》に怒《おこ》らないやうにしなよ、面倒《めんだう》見《み》てね」
「それからわしもお内儀《かみ》さん、恁《か》うして獨《ひとり》で辛抱《しんばう》してんでがすが、わし等《ら》嚊《かゝあ》も死《し》ぬ時《とき》にや子奴等《こめら》こたあ心配《しんぺえ》したんでがすかんね、夫《それ》からわしもおつうが行《い》きてえつちもんだからお針《はり》にも遣《や》りあんすしね、襷《たすき》なんぞも欲《ほし》い/\つちもんだからわし等《ら》見《み》てえな貧乏人《びんばふにん》にや餘計《よけい》なもんぢやありあんすが赤《あけ》えの買《か》つて遣《や》つたんでがさ、此《これ》さうだことしてお内儀《かみ》さん處《とこ》へも小作《こさく》の借《さがり》も持《も》つて來《き》ねえで濟《す》まねえんですが、嚊《かゝあ》が單衣物《ひてえもの》も質《しち》に入《せ》えてたの出《だ》して遣《や》つたんでがすがね、畑《はたけ》へなんぞ出《で》んのにや餘《あんま》り過《す》ぎ物《もの》なんだが、それ一|枚《めえ》切《き》りだからわしも構《かま》あねえで見《み》てんのせ、そんだがお内儀《かみ》さん奇態《きたえ》に汚《よご》しあんせんかんね」勘次《かんじ》は最後《さいご》の一|語《ご》に力《ちから》を入《い》れていつた。
「さうだよ、さうして遣《や》れば勵《はげ》みが違《ちが》ふからね」内儀《かみ》さんはいつて又《また》
「おつぎも能《よ》く働《はたら》けるやうに成《な》つたね、それだが此《こ》の間《あひだ》のやうな處《ところ》を見《み》ると死《し》んだお品《しな》が乘《の》り移《うつ》つたかと思《おも》ふやうさね」
「わしもはあ、あれがこたあ魂消《たまげ》てつことあんでがすがね」
「さういつちや何《なん》だがお品《しな》も隨分《ずゐぶん》お前《まへ》ぢや意地《いぢ》燒《や》いて苦勞《くらう》したことも有《あ》るからね」
「へえ、わしやはあ可怖《おつかな》くつて仕《し》やうねえんですから、わし出《で》らんねえ處《ところ》へは嚊《かゝあ》ばかり出《で》え/\仕《し》たんでがすから」
「さうだつけねえ」内儀《かみ》さんは微笑《びせう》して
「おつぎは心持《こゝろもち》までお袋《ふくろ》の方《はう》だね、お前《まへ》の※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、153−2]《あね》だがおつたはあゝいふ性質《たち》なのに一つ腹《はら》から出《で》ても違《ちが》ふもんだね」
「わし等《ら》※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、153−4]《あね》はお内儀《かみ》さん、碌《ろく》でなしですかんね」彼《かれ》は恥《は》ぢてさうして自分《じぶん》を庇護《かば》ふやうに其《そ》の※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、153−4]《あね》といふのを卑下《くさ》して僻《ひが》んだやうな苦笑《くせう》を敢《あへ》てした。
「おつたは今《いま》何處《どこ》に居《ゐ》るね」
「下《しも》の方《ほう》に居《ゐ》あんすがね、わ
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