つぎは更《さら》に卯平《うへい》を顧《かへり》みて
「なあ爺《ぢゝ》、其《そ》の方《はう》がよかつぺ」といひ掛《か》けた。卯平《うへい》は其《そ》の蹙《しが》めるやうな目《め》で微《かす》かに點頭《うなづ》いた。
「おとつゝあ、どうせ茶漬茶碗《ちやづけぢやわん》も要《え》つから茶碗《ちやわん》買《か》つてそれさ水飴《みづあめ》入《せ》えて繩《なは》で縛《しば》つて來《こ》う、さうすつとえゝや」
「さうでも何《なん》でもすびやな」
「それに、明日《あした》行《い》つたら又《また》藥《くすり》貰《もら》つて來《こ》う、爺《ぢい》が手《て》さも貼《は》つてやんなくつちや仕《し》やうねえぞ」
「俺《お》ら云《ゆ》はんねえでも藥《くすり》は氣《きい》ついてたのよ」勘次《かんじ》はおつぎのいふのを迎《むか》へて聞《き》いた。彼《かれ》の三|尺帶《じやくおび》には其《そ》の時《とき》もぎつと括《くゝ》つた塊《かたまり》があつた。其《その》財布《さいふ》の僅《わづか》な蓄《たくは》へは此《この》數日間《すじつかん》にどれ程《ほど》彼《かれ》を救《すく》つたか知《し》れなかつた。彼《かれ》はまだ幾《いく》らかの日用品《にちようひん》を求《もと》める餘力《よりよく》を有《いう》して居《ゐ》た。彼《かれ》は開墾《かいこん》の賃錢《ちんせん》を手《て》にすることが出來《でき》ればといふ望《のぞ》みが十|分《ぶん》にあつた。只《たゞ》彼《かれ》は目下《いま》其《そ》の幾部分《いくぶぶん》でも要求《えうきう》することが、自分《じぶん》の火《ひ》が燒《や》いた其《そ》の主人《しゆじん》の家《うち》に對《たい》して迚《とて》も口《くち》にするだけの勇氣《ゆうき》が起《おこ》されなかつたのである。
二八
勘次《かんじ》は午餐過《ひるすぎ》になつて復《ま》た外《そと》に出《で》た。紛糾《こぐら》かつた心《こゝろ》を持《も》つて彼《かれ》は少《すこ》し俛首《うなだ》れつつ歩《ある》いた。暖《あたゝ》かな光《ひかり》は畑《はたけ》の土《つち》の處々《ところ/″\》さらりと乾《かわ》かし始《はじ》めた。殊更《ことさら》がつかりしたやうにしをたれた櫟《くぬぎ》の枯葉《かれは》もからからに成《な》つた。凡《すべ》ての樹木《じゆもく》は勢《いきほひ》づいて居《ゐ》た。村落《むら》の處々《と
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