ころ/″\》にはまだ少《すこ》し舌《した》を出《だ》し掛《か》けたやうな白《しろ》い辛夷《こぶし》が、俄《にはか》にぽつと開《ひら》いて蒼《あを》い空《そら》にほか/\と泛《うか》んで竹《たけ》の梢《こずゑ》を拔《ぬ》け出《だ》して居《ゐ》た。只《たゞ》蒿雀《あをじ》は冬《ふゆ》も春《はる》も辨《わきま》へぬやうに、暖《あたゝ》かい日南《ひなた》から隱氣《いんき》な竹《たけ》の林《はやし》を求《もと》めて低《ひく》い小枝《こえだ》を渡《わた》つて下手《へた》な鳴《な》きやうをして、さうして猶且《やつぱり》日南《ひなた》へ出《で》て土《つち》をぴよん/\と跳《は》ねた。凡《すべ》ての心《こゝろ》は暖《あたゝ》かな光《ひかり》の中《なか》に融《と》けて畢《しま》はねばならなかつた。
 勘次《かんじ》は依然《いぜん》として俛首《うなだ》れた儘《まゝ》遂《つひ》に隣《となり》の主人《しゆじん》の門《もん》を潜《くゞ》つた。燒趾《やけあと》は礎《いしずゑ》を止《とゞ》めて清潔《きれい》に掻《か》き拂《はら》はれてあつた。中央《ちうあう》の大《おほ》きかつた建物《たてもの》を失《うしな》つて庭《には》は喬木《けうぼく》に圍《かこ》まれて居《ゐ》る。赭《あか》く燒《や》けた杉《すぎ》の木《き》を控《ひか》へてからりとした庭《には》は、赤土《あかつち》の斷崖《だんがい》の底《そこ》に沈《しづ》んだやうに見《み》える。蒼《あを》い空《そら》を限《かぎ》つて立《た》つた喬木《けうぼく》の梢《こずゑ》が更《さら》に高《たか》く感《かん》ぜられた。勘次《かんじ》は怕《おそ》ろしい異常《いじやう》な感《かん》じに壓《あつ》せられた。隣《となり》の主人《しゆじん》の家族《かぞく》は長屋門《ながやもん》の一|部《ぶ》に疊《たゝみ》を敷《し》いて假《かり》の住居《すまゐ》を形《かたち》づくつて居《ゐ》た。主人夫婦《しゆじんふうふ》は勘次《かんじ》の目《め》からは有繋《さすが》に災厄《さいやく》の後《あと》の亂《みだ》れた容子《ようす》が少《すこ》しも發見《はつけん》されなかつた。主人夫婦《しゆじんふうふ》の曇《くも》らぬ顏《かほ》が只管《ひたすら》恐怖《きようふ》に囚《とら》へられた勘次《かんじ》の首《くび》を擡《もた》げしめた。殊《こと》に内儀《かみ》さんの迎《むか》へて聞《き》く態度《たいど》
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