だが、痛《いた》かねえけえ」おつぎは毎度《いつも》のやうに反覆《くりかへ》して聞《き》いた。言辭《ことば》は軟《やはら》かでさうして潤《うる》んで居《ゐ》た。卯平《うへい》の火傷《やけど》へも油《あぶら》が塗《ぬ》られてあつた。水疱《すゐはう》はいつか破《やぶ》れて糜爛《びらん》した患部《くわんぶ》を、油《あぶら》は見《み》るから厭《いと》はしく且《か》つ穢《きたな》くして居《ゐ》た。死《し》んだ細胞《さいぼう》の下《した》から鮮《あざや》かに赤《あか》く見《み》え始《はじ》めた肉芽《にくげ》は外部《ぐわいぶ》の刺戟《しげき》に對《たい》して少《すこ》しの抵抗力《ていかうりよく》も持《も》つて居《ゐ》ない細胞《さいぼう》の集《あつま》りである。朝夕《あさゆふ》の冷《つめ》たさすら其《そ》の過敏《くわびん》な神經《しんけい》を刺戟《しげき》した。卯平《うへい》は何時《いつ》でも右《みぎ》の横頬《よこほゝ》を上《うへ》にして居《ゐ》る外《ほか》はなかつた。
「さうだにかゝんなくつても癒《なほ》んべなあ」おつぎは、油《あぶら》が穢《きたな》くした火傷《やけど》を凝然《ぢつ》と見《み》て居《ゐ》ると自然《しぜん》に目《め》が蹙《しが》められて、寧《むし》ろ自分《じぶん》の瘡痍《きず》の經過《けいくわ》でも聞《き》くやうに卯平《うへい》の枕《まくら》へ口《くち》をつけていつた。
「うむ」と卯平《うへい》の低《ひく》く響《ひゞ》く聲《こゑ》が決《けつ》して其《そ》の言辭《ことば》のやうな簡單《かんたん》な意味《いみ》のものではなかつた。
「そんでもどうにか家《うち》も拵《こせ》えたから、爺《ぢい》ことも連《つ》れてくべよなあ」おつぎの聲《こゑ》は漸次《ぜんじ》に潤《うる》んで低《ひく》くなつた。卯平《うへい》はそれでもおつぎの聲《こゑ》を聞《き》くと目《め》を瞑《つぶ》つた儘《まゝ》、殆《ほとん》ど明瞭《はつきり》とは見《み》られぬやうな微《かす》かな笑《わら》ひが泛《うか》ぶのであつた。
「どうえの建《た》てゝえ」卯平《うへい》は有繋《さすが》に聞《き》きたかつた。
「どうえのつて爺《ぢい》は、燒《や》けた柱《はしら》掘立《ほつた》てたのよ、そんだから壁《かべ》も塗《ぬ》んねえのよ」
「そんぢや、藁《わら》か萱《かや》でおツ塞《ぷて》えたんでもあんびや」
「うむ、さうだあ、そ
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