つた罪《つみ》といふものは殆《ほと》んど見《み》られなかつた。唯《たゞ》彼《かれ》は盛年《さかり》の頃《ころ》は他《た》の傭人等《やとひにんら》と共《とも》に能《よ》く猫《ねこ》を殺《ころ》して喫《た》べてた。尤《もつと》も其《その》頃《ころ》は猫《ねこ》でも犬《いぬ》でも飼主《かひぬし》を離《はな》れて※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《にはとり》を狙《ねら》ふのが彷徨《うろつ》いた。彼等《かれら》は罠《わな》を掛《か》けてそれを待《ま》つた。然《しか》し大抵《たいてい》の家々《いへ/\》では※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《にはとり》でさへ家《いへ》の内《うち》では煮《に》るのを許容《ゆる》さないので、後《うしろ》の庭《には》へ竹《たけ》で三|本《ぼん》の脚《あし》を作《つく》つてそれへ鍋蔓《なべつる》を掛《か》けた程《ほど》であつたから、猫《ねこ》を殺《ころ》すことが恐《おそ》ろしい罪惡《ざいあく》のやうに見《み》られたのであつた。猫《ねこ》は辛《から》い鹽鮭《しほざけ》を與《あた》へれば腰《こし》が利《き》かない病氣《びやうき》に罹《かゝ》ると一|般《ぱん》にいはれて居《ゐ》るので卯平《うへい》が腰《こし》を惱《なや》んで居《ゐ》るのを稀《まれ》には猫《ねこ》の祟《たゝり》だと戯談《じようだん》にいふものもあつた。それでもさういふ噂《うはさ》は擴《ひろ》がらなかつた。彼《かれ》は憎惡《ぞうを》と嫉妬《しつと》とを村落《むら》の誰《たれ》からも買《か》はなかつた。憎惡《ぞうを》も嫉妬《しつと》もない其處《そこ》に故意《わざ》と惡評《あくひやう》を生《う》み出《だ》す程《ほど》百姓《ひやくしやう》は邪心《じやしん》を有《も》つて居《ゐ》なかつた。村落《むら》の西端《せいたん》に僻在《へきざい》して居《ゐ》る彼《かれ》には興味《きようみ》を以《もつ》て見《み》させる一《ひと》つの條件《でうけん》も具《そな》へて居《ゐ》なかつた。只《たゞ》むつゝりとして他人《たにん》に訴《うつた》へることも求《もと》めることもない彼《かれ》は一|切《さい》村落《むら》との交渉《かうせふ》がなかつた。彼《かれ》の一|身《しん》の有無《うむ》は少《すこ》しも村落《むら》の爲《ため》には輕重《けいちよう》する處《ところ》がなかつた。

         二五

 初冬《
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