桶《をけ》で洗《あら》つた青菜《あをな》は、地《ち》べたへ横《よこた》へた梯子《はしご》の上《うへ》に一|枚《まい》外《はづ》して行《い》つて載《の》せた其《その》戸板《といた》へ積《つ》まれた。菜《な》が洗《あら》ひ畢《をは》つた時《とき》枯葉《かれは》の多《おほ》いやうなのは皆《みな》釜《かま》で茹《ゆ》でゝ後《うしろ》の林《はやし》の楢《なら》の幹《みき》へ繩《なは》を渡《わた》して干菜《ほしな》に掛《か》けた。自分等《じぶんら》の晝餐《ひる》の菜《さい》にも一釜《ひとかま》茹《ゆ》でた。お品《しな》は僅《わづか》な日數《ひかず》を横《よこ》に成《な》つて居《ゐ》たばかりに目《め》が衰《おとろ》へたものか日《ひ》の稍《やゝ》眩《まぶし》いのを感《かん》じつゝ其《そ》の日《ひ》の光《ひかり》を全身《ぜんしん》に浴《あ》びながら二人《ふたり》のするのを見《み》て居《ゐ》た。さうして茹菜《ゆでな》の一皿《ひとさら》が幾《いく》らか渇《かつ》を覺《おぼ》えた所爲《せゐ》か非常《ひじやう》に佳味《うま》く感《かん》じた。
青菜《あをな》の水《みず》が切《き》れたので勘次《かんじ》は桶《をけ》へ鹽《しほ》を振《ふ》つては青菜《あをな》を足《あし》でぎり/\と蹂《ふ》みつけて又《また》鹽《しほ》を振《ふ》つては蹂《ふ》みつける。お品《しな》は鹽《しほ》の加減《かげん》やら何《なに》やら先刻《さつき》から頻《しき》りに口《くち》を出《だ》して居《ゐ》る。勘次《かんじ》はお品《しな》のいふ通《とほ》りに運《はこ》んで居《ゐ》る。
お品《しな》は起《お》きて居《ゐ》ても別《べつ》に疲《つか》れもしないのでそつと草履《ざうり》を穿《は》いて後《うしろ》の戸口《とぐち》から出《で》て楢《なら》の木《き》へ引《ひ》つ張《ぱ》つた干菜《ほしな》を見《み》た。それから林《はやし》を斜《なゝめ》に田《た》の端《はた》へおりて又《また》牛胡頽子《うしぐみ》の側《そば》に立《た》つて其處《そこ》をそつと踏《ふ》み固《かた》めた。それから暫《しばら》く周圍《あたり》を見《み》て立《た》つて居《ゐ》た。お品《しな》は庭先《にはさき》から喚《よ》ぶ勘次《かんじ》の大《おほ》きな聲《こゑ》を聞《き》いた。竹《たけ》や木《き》の幹《みき》に手《て》を掛《か》けながら斜《なゝ》めに林《はやし》をのぼつて
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