ぢい》」といつて戸口《とぐち》に立《た》つやうに成《な》つた。遂《つひ》には彼《かれ》は
「爺《ぢい》くんねえか」と上《あが》り框《がまち》に胸《むね》を持《も》たせて、ばた/\と下駄《げた》で土間《どま》を叩《たゝ》きながら卯平《うへい》に錢《ぜに》を請《こ》ふやうに成《な》つた。それでも彼《かれ》は錢《ぜに》とは明白地《あからさま》にはいはない。
「汝《わ》りや、何《なに》くろつちんでえ」むつゝりした卯平《うへい》が態《わざ》とかう聞《き》くと
「呉《く》んねえか、買《か》あんだから」與吉《よきち》は又《また》ぼんやりと然《しか》も熱心《ねつしん》に要求《えうきう》する。其《その》態度《たいど》を卯平《うへい》は只《たゞ》快《こゝろ》よく思《おも》ふのであつた。
與吉《よきち》が懷《なづ》くまでには日數《ひかず》が經《た》つた。卯平《うへい》は勘次《かんじ》との間《あひだ》は豫期《よき》して居《ゐ》た如《ごと》く冷《ひやゝ》がではあつたが、丁度《ちやうど》落付《おちつ》かない藁屑《わらくづ》を足《あし》で掻《か》つ拂《ぱ》いては鷄《にはとり》が到頭《たうとう》其《そ》の巣《す》を作《つく》るやうに、彼《かれ》は互《たがひ》にこそつぱい勘次《かんじ》の側《そば》に幾分《いくぶん》づゝでも身《み》も心《こゝろ》も落付《おちつけ》ねばならなく餘儀《よぎ》なくされた。さうして彼《かれ》は自分《じぶん》の定《さだ》まつた家《いへ》其《そ》の物《もの》は假令《たとひ》どうであらうとも、心《こゝろ》の一|部《ぶ》には遠慮《ゑんりよ》から離《はな》れた餘裕《よゆう》が生《しやう》じて來《き》て彼《かれ》は僅《わづか》に五六|日《にち》と思《おも》ふ内《うち》に卅|日《にち》以上《いじやう》を經過《けいくわ》して畢《しま》つたのであつた。其《そ》の間《あひだ》彼《かれ》は只《たゞ》の一|度《ど》でも軟《やはら》かな飯《めし》を快《こゝろ》よく嚥《の》み下《くだ》したことがない、勞働者《らうどうしや》の多《おほ》く貪《むさぼ》らねばならぬ強健《きやうけん》なる胃《ゐ》は到底《たうてい》軟《やはらか》な物《もの》に堪《た》へ得《う》る處《ところ》ではない。齒《は》に硬《こは》く感《かん》ずる物《もの》でなければ食事《しよくじ》から食事《しよくじ》までの間《あひだ》を保《たも》ち能《
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