すゝ》が垂《た》れてさうして雨戸《あまど》を開《あ》けてない薄闇《うすくら》い家《いへ》の内《うち》に凝然《ぢつ》としては妙《めう》に心《こゝろ》が滅入《めい》つた。毎日《まいにち》朝《あさ》から尻切襦袢《しりきりじゆばん》一つで熱湯《ねつたう》の桶《をけ》を右《みぎ》の手《て》で肩《かた》に支《さゝ》へては駈《か》け歩《ある》く威勢《ゐせい》の善《い》い壯丁《わかもの》の間《あひだ》に交《まじ》つて唄《うた》の聲《こゑ》を聞《きい》て居《ゐ》たのに、一つには草臥《くたびれ》も出《で》た爲《ため》でもあるが僅《わづか》一|日《にち》の隔《へだて》で彼《かれ》は俄《にはか》に年齡《とし》をとつた程《ほど》げつそりと窶《やつ》れたやうな心持《こゝろもち》に成《な》つた。皆《みな》の夜具《やぐ》は只《たゞ》壁際《かべぎは》に端《はし》を捲《ま》くつた儘《まゝ》で突《つ》きつけてある。卯平《うへい》は其處《そこ》を凝然《ぢつ》と見《み》た。箱枕《はこまくら》の括《くゝ》りは紙《かみ》で包《つゝ》んでないばかりでなく、切地《きれぢ》の縞目《しまめ》も分《わか》らぬ程《ほど》汚《きた》なく脂肪《あぶら》に染《そま》つて居《ゐ》る。土間《どま》の壁際《かべぎは》に吊《つ》つた竹籃《たけかご》の塒《とや》には鷄《にはとり》の糞《ふん》が一|杯《ぱい》に溜《たま》つたと見《み》えて異臭《いしう》が鼻《はな》を衝《つ》いた。卯平《うへい》は天性《ね》が清潔好《きれいずき》であつたが、百姓《ひやくしやう》の生活《せいくわつ》をして、それに非常《ひじやう》な貧乏《びんばふ》から什※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》にしても穢《きた》ない物《もの》の間《あひだ》に起臥《きぐわ》せねばならぬので彼《かれ》も野田《のだ》へ行《ゆ》くまではそれをも別段《べつだん》苦《く》にはしなかつたのであるが、假令《たとひ》幾年《いくねん》でも清潔《せいけつ》な住《すま》ひをした彼《かれ》は天性《てんせい》を助長《じよちやう》して一|種《しゆ》の習慣《しふくわん》を養《やしな》つた。彼《かれ》が家《いへ》に歸《かへ》つたのはお品《しな》が死《し》んだ時《とき》でも、それから三|年目《ねんめ》の盆《ぼん》の時《とき》でも家《いへ》は空洞《からり》と清潔《きれい》
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