うち》に
「爺《ぢい》、お飯《まんま》出來《でき》たよ」卯平《うへい》を喚《よ》んだ。
「先《さき》やつてくろえ」卯平《うへい》はさういつて暫《しばら》く經《た》つてから蒲團《ふとん》を出《で》て井戸端《ゐどばた》へ行《い》つた。卯平《うへい》は幾年目《いくねんめ》かで冷《つめ》たい水《みづ》で顏《かほ》を洗《あら》つた。彼《かれ》は近來《きんらい》にない晨起《はやお》きをしたので、霜《しも》の白《しろ》い庭《には》に立《た》つて硬《こは》ばつた足《あし》の爪先《つまさき》が痛《いた》くなる程《ほど》冷《つめ》たいのを感《かん》じた。火鉢《ひばち》の側《そば》へ坐《すわ》つても煙草《たばこ》の火《ひ》もないので彼《かれ》は自分《じぶん》で竈《かまど》の下《した》の燃《も》えさしを灰《はひ》の儘《まゝ》とつた。おつぎは勘次《かんじ》が煙草《たばこ》を吸《す》はないので一寸《ちよつと》煙草《たばこ》の火《ひ》をとることにまでは心附《こゝろづ》かなかつた。野田《のだ》では始終《しじう》かん/\と堅炭《かたずみ》を熾《おこ》して湯《ゆ》は幾《いく》らでも沸《たぎ》つて夜《よる》でも室内《しつない》に火氣《くわき》の去《さ》ることはないのである。卯平《うへい》は後《おく》れて箸《はし》を執《と》つたが、飯《めし》は暖《あたゝ》かいといふ迄《まで》で大釜《おほがま》で炊《た》いた樣《やう》に程《ほど》よい軟《やはら》かさを保《たも》つては居《ゐ》ないし、汁《しる》も其《そ》の舌《した》に酷《ひど》くこそつぱく且《かつ》不味《まづ》かつた。彼《かれ》は味噌《みそ》には分量《ぶんりやう》を増《ま》す爲《ため》に醤油粕《しやうゆかす》が掻《か》き交《ま》ぜてあることを知《し》つた。勘次《かんじ》は鍬《くは》を執《と》つて立《た》つた。彼《かれ》は毎日《まいにち》唐鍬《たうぐは》を持《も》つて出《で》て居《ゐ》るのであつたが此《こ》の日《ひ》はおつぎを連《つ》れて麥畑《むぎばたけ》の冬墾《ふゆばり》に出《で》るのであつた。卯平《うへい》は獨《ひとり》で※[#「煢−冖」、第4水準2−79−80]然《ぽさり》と残《のこ》された。丈夫《ぢやうぶ》な建物《たてもの》に箒《はうき》を入《い》れて清潔《せいけつ》に住《す》んで來《き》た彼《かれ》は天井《てんじやう》もない屋根裏《やねうら》から煤《
前へ
次へ
全478ページ中274ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング