居《ゐ》た。與吉《よきち》は風呂敷包《ふろしきづゝみ》を脊負《せお》つておつぎに辨當《べんたう》を包《つゝ》んで貰《もら》ひながら
「煎餅《せんべい》くんねえか」と要求《えいきう》した。
「まださうだこと、そんだから汝《われ》げは見《み》せらんねえつちんだ、爺《ぢい》に怒《おこ》られつから見《み》ろ」おつぎは叱《しか》つて顧《かへり》みなかつた。勘次《かんじ》は其《そ》の時《とき》外《そと》の壁際《かべぎは》に積《つ》んだ木《き》の根《ね》をぱかり/\と割《わ》つて居《ゐ》た。卯平《うへい》は一|日《にち》歩《ある》いた草臥《くたびれ》が酷《ひど》く出《で》たやうでもあるし、又《また》自分《じぶん》の村落《むら》へ歸《かへ》つたので心《こゝろ》が悠長《のんびり》とした樣《やう》でもあるし、それに此《こ》の數年來《すうねんらい》は火《ひ》の番《ばん》の癖《くせ》で朝《あさ》はゆつくりとして居《ゐ》るのが例《れい》であつたので、彼《かれ》は其《そ》の時《とき》蒲團《ふとん》の中《なか》に凝然《ぢつ》と目《め》を開《あ》いておつぎの働《はたら》いて居《ゐ》るのを見《み》て居《ゐ》たが
「欲《ほ》しいつちんだら出《だ》して遣《や》れえ」彼《かれ》はいつた。おつぎは戸棚《とだな》から煎餅《せんべい》を一|枚《まい》出《だ》して與吉《よきち》へ渡《わた》した。與吉《よきち》はすつと奪《うば》ふ樣《やう》にして取《と》つた。
「しらばつくれて」おつぎは斜《なゝめ》に脊負《せお》つた書藉《しよせき》の上《うへ》から與吉《よきち》をぱたと叩《たゝ》いた。與吉《よきち》は霜《しも》の白《しろ》く掩《おほう》た庭《には》を小《ちひ》さな下駄《げた》でから/\と鳴《な》らしながら遁《に》げるやうに駈《か》けて行《い》つた。卯平《うへい》は窪《くぼ》んだ目《め》を蹙《しが》めて一|種《しゆ》の暖《あたゝ》かな表情《へうじやう》を示《しめ》して與吉《よきち》の後姿《うしろすがた》を見《み》た。勘次《かんじ》は割《わ》つた薪《まき》を草刈籠《くさかりかご》へ入《い》れて竈《かまど》の前《まへ》へ置《お》いて朝餉《あさげ》の膳《ぜん》に向《むか》つて、一|碗《わん》を盛《も》つた。おつぎは氣《き》がついた樣《やう》に
「爺《ぢい》こと起《おこ》すべか」といつて勘次《かんじ》が返辭《へんじ》せぬ内《
前へ
次へ
全478ページ中273ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング