こそつぱい儘《まゝ》に嚥《の》み下《くだ》した。おつぎが膳《ぜん》を引《ひ》かうとすると
「其《そ》の醤油《しやうゆ》は打棄《うつちや》らねえで大事《でえじ》にして置《お》け」勘次《かんじ》は小皿《こざら》の數滴《すうてき》を惜《をし》んだ。
「其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》こと云《ゆ》はねえつたつて打棄《うつちや》るもなあんめえな」おつぎは干渉《かんせふ》に過《す》ぎた勘次《かんじ》の注意《ちうい》が厭《いや》だと思《おも》ふよりも、偶《たま/\》逢《あ》つた卯平《うへい》の側《そば》でいはれるのが極《きま》りが惡《わる》いので喉《のど》の底《そこ》で呟《つぶや》いた。
「※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、246−11]《ねえ》今《いま》一|枚《めえ》くんねえか」與吉《よきち》は流《なが》し元《もと》に手《て》を動《うご》かして居《ゐ》るおつぎへ極《きは》めて小《ちひ》さな聲《こゑ》で請求《せいきう》した。
「汝《わ》りや、そつから佳味《うま》かねえなんていふもんぢやねえ、直《す》ぐ欲《ほ》しくなる癖《くせ》に」おつぎはこつそり叱《しか》つた。
「そうら汝《われ》げ買《か》つて來《き》たんだ、欲《ほ》しけりや幾《いく》らでも持《も》つてけ」卯平《うへい》は不器用《ぶきよう》ないひ方《かた》をしながら煎餅《せんべい》をとつて遣《や》つた。與吉《よきち》はそれでも窪《くぼ》んだ目《め》を蹙《しが》めて居《ゐ》る卯平《うへい》がまだこそつぱくて指《ゆび》の先《さき》で下唇《したくちびる》を口《くち》の中《なか》へ押《お》し込《こ》むやうにしながら額越《ひたひご》しに卯平《うへい》を見《み》た。

         十七

 次《つぎ》の朝《あさ》與吉《よきち》はまだ皆《みな》の膳《ぜん》の据《す》ゑられぬうちから學校《がくかう》へ行《ゆ》くとては騷《さわ》いだ。村落《むら》の生徒等《せいとら》は登校《とうかう》の早《はや》いことを教師《けうし》から只《たゞ》一|言《ごん》でも褒《ほ》められて見《み》たいので、慌《あわ》てなくても善《い》いのに汁《しる》も煮立《にた》たぬうちから強請《せが》むのである。與吉《よきち》は此《こ》れで毎朝《まいあさ》おつぎから五月蝿《うるさ》がられて
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