を勸《すゝ》めた。彼《かれ》は故郷《こきやう》へ幾年目《いくねんめ》かで行《ゆ》く序《ついで》もあるし、幸《さいは》ひ勘次《かんじ》のことは村落《むら》に居《ゐ》る内《うち》に知《し》つて居《ゐ》たから相談《さうだん》をして來《き》てやらうといつた。卯平《うへい》は近頃《ちかごろ》滅切《めつきり》窪《くぼ》んだ茶色《ちやいろ》の眼《め》を蹙《しか》めるやうにしながら微《かす》かな笑《ゑみ》を浮《うか》べた。
 親方《おやかた》が勘次《かんじ》へ噺《はなし》をした時《とき》
「わしや、なあに、家《うち》のもんだから面倒《めんだう》見《み》ねえた云《ゆ》はねえね」勘次《かんじ》は油《あぶら》の乘《の》らぬ態度《たいど》でいつた。
「勘次《かんじ》さん近頃《ちかごろ》工合《ぐあひ》がえゝといふ噺《はなし》だが」親方《おやかた》も義理《ぎり》一|遍《ぺん》のやうにいふと
「工合《ぐあひ》えゝつちこともねえが、此《こ》んでも命懸《いのちが》けで働《はたれ》えてんだから、他人《ひと》のがにや大《え》けえ錢《ぜね》になるやうにも見《め》えべが、俺《お》らにこんで爺樣《ぢさま》が代《でえ》の借金《しやくきん》拔《ぬ》けねえで居《え》んだからそれせえなけりや泣《な》かねえでも畢《を》へんだよ、そんだがそれでばかり動《いご》き取《と》れねえな」
「そんぢや、其《そ》の時《とき》にや勘次《かんじ》さんも善《い》い理由《わけ》だね」
「そりやさうだが」勘次《かんじ》は何處《どこ》となく拍子《ひやうし》を變《か》へていつた。
「勘次《かんじ》さん等《ら》それでも※[#「穀」の「禾」に代えて「釆」、238−12]類《こくるゐ》はなか/\有《あ》る容子《ようす》だね」突込《つゝこ》んで聞《き》くと
「其《そ》の位《くれえ》なくつちや仕《し》やうねえもの、俺《お》ら此處《ここ》へ來《き》た當座《たうざ》にや病氣《びやうき》ん時《とき》でもからつき挽割麥《ひきわり》ばかしの飯《めし》なんぞおん出《だ》されて、俺《お》ら隨分《ずいぶん》辛《つれ》え目《め》に逢《あ》つたんだよ、こんでさうえこた、忘《わす》らんねえもんだかんな」勘次《かんじ》は到頭《たうとう》要領《えうりやう》を得《え》ない返辭《へんじ》をするのみであつた。
 藏《くら》の親方《おやかた》は勘次《かんじ》がどういふ料簡《れうけん》である
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