れど、草葉《くさば》の陰《かげ》で……」婆《ばあ》さんが自分《じぶん》の聲《こゑ》に乘《の》つて來《き》た時《とき》勘次《かんじ》はぼろ/\と涙《なみだ》を零《こぼ》した。おつぎもそつと涙《なみだ》を拭《ぬぐ》つた。
「ほんの假座《かりざ》のことなれば、此《こ》れにて俺《お》れは歸《かへ》るぞよう……」それから又《また》
「鴉《からす》の鳴《な》きがそでなくもう……」と反覆《くりかへ》しつゝ巫女《くちよせ》の婆《ばあ》さんの聲《こゑ》は輕《かる》く引《ひ》いてそつと拔《ぬ》いたやうに止《や》んだ。
「俺《お》れ濟《す》まねえ」勘次《かんじ》はぽつさりといつて又《また》涙《なみだ》を横《よこ》に拭《ぬぐ》つた。
「本當《ほんたう》に出《で》たんだよ、可怖《おつかね》えやうだな」其處《そこ》に居《ゐ》た若《わか》い女房《にようばう》はしみ/″\といつた。それから續《つゞ》いて他《た》の二三|人《にん》が身《み》の上《うへ》やら生口《いきぐち》やらを寄《よ》せた。さうして座敷《ざしき》の隅《すみ》に居《ゐ》た瞽女《ごぜ》が代《かは》つて三味線《さみせん》の袋《ふくろ》をすつと扱《こ》きおろした時《とき》巫女《くちよせ》は荷物《にもつ》の箱《はこ》を脊負《しよ》つて自分《じぶん》の泊《とま》つた宿《やど》へ歸《かへ》つて行《い》つた。
 三味線《さみせん》の撥《ばち》が一|度《ど》絃《いと》に觸《ふ》れるとしんみりとした座敷《ざしき》が急《きふ》に勢《いきほ》ひづいてランプの光《ひかり》が俄《にはか》に明《あか》るいやうに成《な》つた。勘次《かんじ》はそれを聞《き》くに堪《た》へないで、彼《かれ》は其《そ》の夜《よ》に限《かぎ》つて自分《じぶん》で與吉《よきち》の手《て》を曳《ひ》いて自分《じぶん》の家《うち》へと闇《やみ》の中《なか》へ身《み》を沒《ぼつ》した。若《わか》い衆《しゆう》は三|人《にん》の後姿《うしろすがた》を見《み》て
「蛬《きりぎりす》ぢやねえが、口《くち》鳴《な》らさねえぢや居《ゐ》らんねえな」といつた。
「そんだが、今夜《こんや》はしみ/″\泣《な》いたんぢやねえけ、あんでもお品《しな》さんこた何程《なんぼ》惜《を》しいか知《し》んねえのがだかんな」
「今《いま》だつて其《その》噺《はなし》すつと幾《いく》らでもしてんだかんな」
「そんだがよ、先刻《
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