女房等《にようばうら》の手《て》が俄《にはか》におつぎの臀《しり》をつゝいて
「おつうとそれ、返辭《へんじ》するもんだ」小聲《こごゑ》でいつて微《かすか》に笑《わら》つた。勘次《かんじ》は怪訝《けげん》な容子《ようす》をして柱《はしら》の陰《かげ》を凝然《ぢつ》と見《み》て目《め》を蹙《しか》めた。
「おつぎは居《ゐ》るよおめえ、さういに見《み》ねえでも」柱《はしら》の陰《かげ》からいつて私語《さゞめ》いた。勘次《かんじ》は板《いた》の間《ま》の端《はし》に近《ちか》く居《ゐ》たのであるが膳《ぜん》を越《こ》えて身體《からだ》をぐつと前《まへ》へ延《の》ばしては徳利《とくり》を動《うご》かして空《から》に成《な》つたのは女房等《にようばうら》へ渡《わた》して何處《どこ》となしに心《こゝろ》を配《くば》る樣《やう》にそわ/\として居《ゐ》る。
「はてな、懷《ふとこれ》え入《せ》えた筈《はず》だつけが」と兼《かね》博勞《ばくらう》は懷《ふところ》から周圍《あたり》を探《さが》して側《そば》へ落《お》ちた小《ちひ》さな紙包《かみづゝみ》を手《て》にして
「こうれ、うめえ物《もの》見《み》ろえまあ」といつて開《あ》けて見《み》ると一|寸《すん》ばかりの蟷螂《かまきり》が斧《をの》を擡《もた》げてちよろちよろと歩《ある》き出《だ》した。
「へゝえ、此《こ》ん畜生奴《ちきしよめ》こんでも怒《おこ》つてらあ」兼《かね》博勞《ばくらう》はちよいと蟷螂《かまきり》をつゝいて見《み》て獨《ひと》り興《きよう》がつて笑《わら》つた。
「どうしたもんだんべ大《え》けえ姿《なり》して」と女房《にようばう》は皆《みな》笑《わら》つた。
「あれ俺《お》ら知《し》つてら」おつぎの傍《そば》に居《ゐ》た與吉《よきち》は兼《かね》博勞《ばくらう》の側《そば》へ行《い》つて
「鴉《からす》のきんたまから出《で》んだぞこら」といつた。
「汝《わ》ツ等《ら》知《し》りもしねえで」勘次《かんじ》は與吉《よきち》を甘《あま》やかす樣《やう》にしていつた。
「そんだつて俺《お》ら見《み》た、笹《さゝ》つ葉《ぱ》の枝《えだ》にくつゝいてた處《ところ》から出《で》たんだ」與吉《よきち》は蟷螂《かまきり》を弄《いぢ》りながらいつた。
「勘次《かんじ》さん駄目《だめ》だよ、學校《がくこ》へ遣《や》つちや半年《はんとし》た
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