《つゞ》く。さうすると麥《むき》を刈《か》つた跟《あと》の菽《まめ》や陸穗《をかぼ》が渇《かつ》した口《くち》へ冷《つめ》たい水《みづ》を獲《え》た樣《やう》に勢《いきほひ》づいて、四五|日《にち》の内《うち》に青《あを》い葉《は》を以《もつ》て畑《はたけ》の土《つち》が寸隙《すんげき》もなく掩《おほ》はれる。雨《あめ》は蹂《ふ》み固《かた》めてある百姓《ひやくしやう》の庭《には》の土《つち》にも※[#「くさかんむり/(火+旱)」、195−5]菜《いぬがしら》や石龍※[#「くさかんむり/内」、第3水準1−90−67]《たがらし》の黄色《きいろ》い小粒《こつぶ》な花《はな》を持《も》たせて、棟《やのむね》にさへ長《なが》い短《みじか》い草《くさ》を生《しやう》ぜしめる。自然《しぜん》の意志《いし》は只管《ひたすら》に地上《ちじやう》の到《いた》る處《ところ》に軟《やはら》かな青《あを》い葉《は》を以《もつ》て掩《おほ》ひ隱《かく》さうとのみ力《ちから》を注《そゝ》いで居《ゐ》るのである。其《そ》の意志《いし》に逆《さか》らうて猶豫《たゆた》うて居《ゐ》るのは百姓《ひやくしやう》の手《て》で丁寧《ていねい》に捏《こ》ねられた水田《すゐでん》のみである。夏《なつ》が漸《やうや》く深《ふ》けると自然《しぜん》は其《そ》の心《こゝろ》を焦燥《あせ》らせて、霖雨《りんう》が低《ひく》い田《た》に水《みづ》を滿《み》たしめて、堀《ほり》にも茂《しげ》つた草《くさ》を沒《ぼつ》して岸《きし》を越《こ》えしめる。稻草《いなぐさ》を以《もつ》て田《た》の空地《くうち》を埋《うづ》めることが一|日《にち》でも速《すみや》かなればそれだけ餘計《よけい》な報酬《はうしう》を晩秋《ばんしう》の收穫《しうくわく》に於《おい》て與《あた》へるからと教《をし》へて自然《しぜん》は百姓《ひやくしやう》の體力《たいりよく》の及《およ》ぶ限《かき》り活動《くわつどう》せしめる。さうすると百姓《ひやくしやう》は田《た》のやうにどろ/\と往來《わうらい》の土《つち》をも捏《こ》ねて馬《うま》と共《とも》に泥《どろ》に塗《まみ》れながら田植《たうゑ》にのみ屈託《くつたく》する。彼等《かれら》は雨《あめ》を藁《わら》の蓑《みの》に避《さ》けて左手《ひだりて》に持《も》つた苗《なへ》を少《すこ》しづつ取《と》つて後
前へ 次へ
全478ページ中217ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング