》を覘《ねら》ふことは、蛸壺《たこつぼ》を沈《しづ》めるやうな其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》寧《むし》ろあてどもないものではない。木《こ》の葉《は》が陰翳《かげ》を落《お》として呉《く》れぬ冬《ふゆ》の夜《よ》には覘《ねら》うて歩《ある》く彼等《かれら》は自分《じぶん》の羞耻心《しうちしん》を頭《あたま》から褞袍《どてら》で被《おほ》うて居《ゐ》る。短《みじか》い夜《よ》の頃《ころ》でも、朝《あさ》の眠《ねむ》たさが覿面《てきめん》に自分《じぶん》を窘《たしな》めるにも拘《かゝ》はらずうそ/\と歩《ある》いて見《み》ねば臭《くさ》い古《ふる》ぼけた蚊帳《かや》の中《なか》に諦《あきら》めて其《その》身《み》を横《よこ》たへることが出來《でき》ないのである。彼等《かれら》が女《をんな》の所在《ありか》を覘《ねら》ふのは極《きは》めて容易《ようい》なものの樣《やう》ではありながら蛸壺《たこつぼ》が少《すこ》しの妨《さまた》げもなく沈《しづ》められる樣《やう》ではなく、父母《ふぼ》の目《め》が闇《やみ》の夜《よ》にさへ光《ひかり》を放《はな》つて女《をんな》を彼等《かれら》から遮斷《しやだん》しようとして居《ゐ》る。彼等《かれら》はそれで目《め》の光《ひかり》の及《およ》ぶ範圍内《はんゐない》には自分《じぶん》の身《み》を表《あら》はさないで目的《もくてき》を遂《と》げようと苦心《くしん》する。譬《たとへ》て見《み》れば彼等《かれら》は狹《せば》いとはいひながら跳《はね》ては越《こ》せぬ堀《ほり》を隔《へだ》てゝ、然《し》かも繁茂《はんも》した野茨《のばら》や川楊《かはやなぎ》に身《み》を沒《ぼつ》しつゝ女《をんな》の軟《やはら》かい手《て》を執《と》らうとするのである。其《そ》れは到底《たうてい》相《あひ》觸《ふ》れることさへ不可能《ふかのう》である。焦燥《あせ》つて堀《ほり》を飛《と》び越《こ》えようとしては野茨《のばら》の刺《とげ》に肌膚《はだ》を傷《きずつ》けたり、泥《どろ》に衣物《きもの》を汚《よご》したり苦《にが》い失敗《しつぱい》の味《あぢ》を嘗《な》めねばならぬ。其《そ》れ故《ゆゑ》彼等《かれら》は隱約《いんやく》の間《あひだ》に巧妙《かうめう》な手段《しゆだん》を施《ほどこ》さうとして其處《そこ
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