じやうとう》で十四五|錢《せん》しかしないだらうね」
「さうでがすか、わしやまた大變《たいへん》出《で》んだとばかし思《おも》つてあんした」
「それも反物《たんもの》に成《な》つてるのを切《き》らしてさうだよ、それからもつと廉《やす》くも出來《でき》るのさ、村《むら》の店《みせ》なんぞぢや錢《ぜに》ばかりとつて虱《しらみ》が潜《もぐ》り相《さう》なのでね」内儀《かみ》さんは微笑《びせう》した。
「さういふ短《みじか》いのは端布片《はしぎれ》で買《か》ふに限《かぎ》るのさ、幾《いく》らにもつかないもんだよ、私《わたし》が近頃《ちかごろ》出《で》る序《ついで》もあるから買《か》つて來《き》て遣《や》つても善《い》いよ」
「さうですか、そんぢやお内儀《かみ》さんどうかさうしておくんなせえ、お内儀《かみ》さんに見《み》て貰《もれ》えせえすりや大丈夫《だえぢようぶ》でがすから、なあに赤《あか》くせえありや什※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》んでも構《かま》あねえんでがすがね」
「一|日《にち》お前《まへ》が日傭《ひよう》に來《き》さへすりやそれ丈《だけ》は出《で》て畢《しま》ふから、欲《ほ》しいといふものなら拵《こしら》へて遣《や》るが善《い》いよ、そりや欲《ほ》しい筈《はず》さおつぎも明《あ》ければ十八に成《な》るんだつけね」内儀《かみ》さんは同情《どうじやう》していつた。
「わしに怒《おこ》らつるもんだから蔭《かげ》でぐず/\云《ゆ》つて困《こま》んでさ」勘次《かんじ》は更《さら》に
「そんぢやまあ善《よ》かつた、わし等《ら》そんなこたあちつとも分《わか》んねえから、夫《それ》からはあお内儀《かみ》さんに聞《き》いてんべと思《おも》つてたのせ」といつて何處《どこ》となくそわ/\と悦《よろこ》ばしさを禁《きん》じ得《え》ないものゝ如《ごと》くである。
「女《をんな》の子《こ》は此《こ》れで飾《かざり》だから他人《ひと》にも見《み》られるからね」内儀《かみ》さんは懇《ねんごろ》にいつた。
「わし等《ら》自分《じぶん》ぢや什※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》襤褸《ぼろ》だつて構《かま》あねえが此《こ》れで女《あま》つ子《こ》にやねえ、わしもこんでお内儀《かみ》さんに聞《き
前へ 次へ
全478ページ中173ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング