れあんすかんね」
「厭《いや》がられるつてお前《まへ》そんなものぢやないよ、舅《しうと》だもの、婿《むこ》だの娘《むすめ》だのといふものは餘計《よけい》氣《き》をつけなくちや成《な》らないものなんだね」内儀《かみ》さんは窘《たしな》める樣《やう》にいつた。
「そりやさうですがね、お内儀《かみ》さん」勘次《かんじ》は何《なん》だが隱事《いんじ》でも發《あば》かれたやうに慌《あわ》てゝいつてさうして苦笑《くせう》した。
「おつたは本當《ほんたう》に舅《しうと》は善《よ》くしなかつた相《さう》だな、自分等《じぶんら》の方《はう》の※[#「滔」の「さんずい」に代えて「飮のへん」、第4水準2−92−68]《あん》へは砂糖《さたう》を入《い》れても舅《しうと》の方《はう》へは砂糖《さたう》を入《い》れなかつたなんて暫《しばら》く前《まへ》に聞《き》いたつけが」内儀《かみ》さんは獨《ひとり》で低聲《こごゑ》にいつた。
「どうでがしたかねそれは」勘次《かんじ》は先刻《さつき》の容子《ようす》とは違《ちが》つて、俄《にはか》に庇護《かば》ひでもするやうな態度《たいど》でいつた。
「そんなに仕《し》なくつたつて幾《いく》らも生《い》きやしない老人《としより》のことをな」内儀《かみ》さんは熟《つくづく》と復《また》いつた。勘次《かんじ》は餘計《よけい》に萎《しを》れた。
「勘次《かんじ》も錢《ぜに》は自分《じぶん》の手《て》から湧《わか》すやうにして辛抱《しんばう》してりや辛《つら》いことばかり無《な》いから、何《なん》でも人間《にんげん》は子供次第《こどもしだい》だよ、後《あと》で厄介《やくかい》に成《な》らなくちや成《な》らないんだから子供《こども》の面倒《めんだう》は見《み》ないな間違《まちがひ》だよ」内儀《かみ》さんは勵《はげま》すやうにさうしてしんみりといつた。暫《しばら》く噺《はなし》が途切《とぎ》れた時《とき》勘次《かんじ》は突然《とつぜん》
「お内儀《かみ》さん變《へん》なこと聞《き》くやうでがすが帶《おび》にする布片《きれ》はどの位《くれえ》有《あ》つたらえゝもんでがせうね」と聞《き》いた。
「おつぎにでも締《し》めさせるのかい」
「へえ、今《いま》のが古《ふる》くつて厭《や》だなんて強請《ねだ》れんで、何時《いつ》でもわし怒《おこる》んでがすが、お内儀《かみ》さん處《
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