と》が鬼怒川《きぬがは》へ落《お》ちて死《し》んだなんて大騷《おほさわ》ぎしたことが有《あ》つたつけねえ」
「さうでさ、餘《よ》つ程《ぽど》に成《な》りあんすがね、ありや鬼怒川《きぬがは》へ蚤《のみ》叩《はた》くつて行《い》つてそれつ切《き》りに成《な》つちやつたのせ」
「彦次《ひこじ》は實子《じつし》なんだね」
「えゝ、暫《しばら》く目《め》が不自由《ふじいう》で別《べつ》に小《ちひ》さく作《つく》つて隱居《いんきよ》してたんですが、蚤《のみ》は居《ゐ》た容子《ようす》なんでがすね、一|度《ど》なんざあ畑《はたけ》の側《そば》で叩《たて》えたら其處《そこ》ら通《とほ》つた人《ひと》みんなぞよ/\偃《は》ひ上《あが》られて酷《ひ》でえ目《め》に逢《あ》つたちんですから、そんで其處《そこ》らで叩《たて》えちや仕《し》やうねえからなんて云《い》はれたんでがせうね、それから何《なん》でも蓙《ござ》持《も》つて鬼怒川《きぬがは》さ行《ゆ》く積《つもり》に成《な》つたんでがすね、鬼怒川《きぬがは》までは有繋《まさが》餘《よ》つ程《ぽど》ありあんさね、足《あし》もとが本當《ほんたう》ぢやねえからずんぶらのめつちやつたもんでさ、本當《ほんたう》に飽氣《あつけ》ねえ噺《はなし》で、それお内儀《かみ》さんわし等《ら》※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、157−5]《あね》は他人《ひと》が死骸《しげえ》見付《めつ》けて大騷《おほさわ》ぎして知《し》らせに來《き》たら、直《すぐ》はあ死人《しにん》の衣物《きもの》から始末《しまつ》して掛《かゝ》つたつちんですから」
「自分《じぶん》で取《と》つて畢《しま》ふ積《つもり》なんだね」
「兄弟等《きやうでえら》げ分《わ》けてなんざあ遣《や》んねえ積《つむり》なんでさね」
「衣物《きもの》だつて幾《いく》らも無《な》いんだらうがね、それにまあどうして川《かは》へなんて其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》遠《とほ》くへ蓙《ござ》ばかり持《も》つてね、行《ゆ》くうちにや居《ゐ》た蚤《のみ》もみんな飛《と》んで了《しま》ふだらうがね、まあさういのも運《めぐ》り合《あは》せだね」
「はあ耄碌《まうろく》してたんでがすから、餘《あん》まり耄碌《まうろく》しちや厭《や》がら
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