うしたね」
「村落《むら》に居《ゐ》あんさ、何處《どこ》つちつたつて行《ゆ》き場所《ばしよ》はねえんですから、なあに獨《ひと》りでせえありや却《けえ》つて懷《ふところ》はえゝんでがすから」
「それはまあ、おつたはさうとしても、それがさ、彦次《ひこじ》はどうしたんだね、私《わたし》もおつたのことは暫《しばら》く前《まへ》に見《み》たつ切《きり》だが」
「お内儀《かみ》さん、夫婦《ふうふ》揃《そろ》つてなくつちや行《や》れるもんぢやありあんせんぞ、親爺《おやぢ》だつてお内儀《かみ》さん自分《じぶん》の女《あま》つ子《こ》女郎《ぢよらう》に賣《う》つて百五十|兩《りやう》とかだつていひあんしたつけがそれ歸《けえ》りに軍鷄喧嘩《しやもげんくわ》へ引《ひ》つ掛《かゝ》つて、七十|兩《りやう》も奪《と》られて來《き》たつちんでがすから噺《はなし》にや成《な》んねえですよ、そつからわしや※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、155−13]等夫婦《あねらふうふ》のこたあ大嫌《だえきれえ》なんでさあ」
「本當《ほんたう》とは思《おも》へないやうなことだね」
「お内儀《かみ》さん本當《ほんたう》ですともね、わしあ嘘《ちく》なんざお[#「お」に「ママ」の注記]内儀《かみ》げいひあんせんから」
「そりや本當《ほんたう》にや相違《さうゐ》ないだらうがね」
「そんだがお内儀《かみ》さん、其《その》女《あま》つ子《こ》も直《すぐ》遁《に》げて來《き》つちめえあんしたね、今《いま》ぢや何《なん》とか云《い》つて厭《や》だら構《かま》あねえ相《さう》でがすね」
「私《わたし》もそんなことは知《し》らないが、新聞《しんぶん》で騷《さわ》ぎはあつたやうだつけね」内儀《かみ》さんは何處《どこ》かさういふ噺《はなし》には氣《き》が乘《のら》ぬやうで
「おつたも見《み》た處《ところ》ぢや體裁《ていさい》がよくてね」
「さうなんでさ、うまいもんだからわしも到頭《たうとう》米《こめ》一|俵《ぺう》損《そん》させられちやつて」勘次《かんじ》はそれをいふ度《たび》に惜《を》し相《さう》な容子《ようす》が見《み》えるのである。
「さういつちやお前《まへ》の※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、156−10]《あね》のこと惡《わる》くばかりいふやうだが、舅《しう
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