く》れた。内儀《かみ》さんは傭人《やとひにん》の口《くち》を堅《かた》く警《いまし》めて外《そと》へ洩《も》れないやうと苦心《くしん》をした。其《そ》の日《ひ》も巡査《じゆんさ》は勘次《かんじ》の家《いへ》のあたりを徘徊《はいくわい》したがそれでも其《そ》の東隣《ひがしどなり》の門《もん》を叩《たゝ》いて穿鑿《せんさく》するまでには至《いた》らなかつた。内儀《かみ》さんは什※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》にしても救《すく》つて遣《や》りたいと思《おも》ひ出《だ》したら其處《そこ》に障害《しやうがい》が起《おこ》れば却《かへつ》てそれを破《やぶ》らうと種々《しゆじゆ》に工夫《くふう》も凝《こら》して見《み》るのであつた。それで被害者《ひがいしや》の方《はう》の噺《はなし》も極《きま》つたのだから此《こ》の上《うへ》は警察《けいさつ》の手加減《てかげん》に俟《ま》つより外《ほか》に道《みち》は無《な》いのであるが、不在《ふざい》であつた主人《しゆじん》は其《そ》の日《ひ》も歸《かへ》らない。勘次《かんじ》は只管《ひたすら》に主人《しゆじん》の力《ちから》に倚《よ》つてのみ救《すく》はれるものと念《ねん》じて居《ゐ》る。内儀《かみ》さんも主人《しゆじん》を待《ま》ちあぐんで居《ゐ》る。さうして復《また》夜《よる》が來《き》た。内儀《かみ》さんはもう凝然《ぢつ》としては居《ゐ》られない。それでおつぎを連《つ》れて、提灯《ちやうちん》を點《つ》けて竊《ひそか》に土藏《どざう》の二|階《かい》へ昇《のぼ》つた。
「おとつゝあ」おつぎは聲《こゑ》を殺《ころ》しながら力《ちから》を入《い》れていつた。勘次《かんじ》は返辭《へんじ》がない。おつぎは更《さら》に幾度《いくたび》か喚《よ》んでそれからお内儀《かみ》さんが喚《よ》んだ時《とき》汚《よご》れた身體《からだ》を桶《をけ》の中《なか》から現《あら》はした。
「旦那《だんな》がまだ歸《かへ》らないのでね、警察《けいさつ》の方《はう》の噺《はなし》が出來《でき》ないで困《こま》つて居《ゐ》るんだが、どうだねお前《まへ》警察《けいさつ》へ出《で》ても盜《と》らないといひ切《き》れるかね、さうすりや私《わたし》が始末《しまつ》をして遣《や》るがね」内儀《かみ》さんはいつて聞《き》か
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