かみ》さん處《とこ》さ行《え》くべと思《おも》つて居《ゐ》たら、何《なん》ちこつたか恁《こ》んな騷《さわ》ぎではあ行《い》くも出來《でき》ねえで、わしや昨日《きのふ》歸《けえ》つて來《き》た處《ところ》なのせえ、お内儀《かみ》さん」老母《ばあさん》は幾《いく》らでも勢《いきほ》ひづいて饒舌《しやべ》らうとする。熱《あつ》い茶《ちや》が漸《やうや》く内儀《かみ》さんの前《まへ》に汲《く》まれた。被害者《ひがいしや》は老父《ぢいさん》と座敷《ざしき》の隅《すみ》で先刻《さつき》からこそ/\と噺《はなし》をして居《ゐ》る。さうして更《さら》に老母《ばあさん》を喚《よ》んだ。
「うむ、さうだともよ」といふ老母《ばあさん》の聲《こゑ》がすると皆《みな》坐《ざ》に直《なほ》つて
「それぢや、お内儀《かみ》さん、先刻《さつき》のがなお内儀《かみ》さんえゝやうに行《や》つて見《み》ておくんなせえ」被害者《ひがいしや》はいつた。
「わしや、一剋者《いつこくもの》だからお内儀《かみ》さん惡《わる》く思《おも》はねえでおくんなせえ」老父《ぢいさん》もいつた。
「どうぞねえお内儀《かみ》さん」老母《ばあさん》もいつた。内儀《かみ》さんはそれから又《また》暫《しばら》く雜談《ざふだん》をして皆《みんな》で笑《わら》つて歸《かへ》つた。腹《はら》に在《あ》るだけのことをいはして畢《しま》へば彼等《かれら》はそれだけ心《こゝろ》が晴々《せいせい》として勢《いきほひ》が段々《だん/\》鈍《にぶ》つて來《く》るので、其《その》間《あひだ》は機嫌《きげん》もとつて見《み》て、さうして極《きま》り切《き》つた理窟《りくつ》も反覆《はんぷく》して聞《き》かせて居《ゐ》るうちにはころりと落《お》ちて畢《しま》ふといふ其《そ》の呼吸《こきふ》を内儀《かみ》さんは能《よ》く知《し》つて居《ゐ》るのである。
 其《そ》の夜《よ》おつぎは内儀《かみ》さんに喚《よ》ばれて隣《となり》へ泊《とま》つた。内儀《かみ》さんはおつぎと與吉《よきち》を只《たゞ》二人《ふたり》其《そ》の家《いへ》に置《お》くには忍《しの》びなかつたのである。夜《よ》になつてから勘次《かんじ》は土藏《どざう》から出《だ》されて傭人《やとひにん》の側《そば》に一|夜《や》を明《あか》した。彼《かれ》は未明《みめい》に復《また》土藏《どざう》へ隱《か
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