ほ》りが出來《でき》ないやうな實例《ためし》が幾《いく》らも世間《せけん》には有《あ》るもんだからね」内儀《かみ》さんは反覆《くりかへ》していつた。然《しか》し容易《ようい》に彼等《かれら》の心《こゝろ》は落居《おちゐ》ない。暫《しばら》く噺《はなし》は途切《とぎれ》て居《ゐ》た。
「遠《とほ》くの方《はう》へ遣《や》つたなんていつたつけがおりせは又《また》孫《まご》が出來《でき》た相《さう》だね、今度《こんど》のは男《をとこ》だつてそれでも善《よ》かつたねえ」
内儀《かみ》さんは側《そば》に居《ゐ》た老母《ばあさん》へ向《む》いて突然《とつぜん》恁《か》ういひ掛《か》けた。さうして内儀《かみ》さんは冷《つめ》たく成《な》つて居《ゐ》た茶碗《ちやわん》を手《て》にした。其《そ》れを見《み》て被害者《ひがいしや》の女房《にようばう》は土間《どま》へ駈《か》けおりて竈《かまど》の口《くち》へ火《ひ》を點《つ》けてふう/\と火吹竹《ひふきだけ》を吹《ふ》いた。
「はあいさうでござりますよ、お内儀《かみ》さんの厄介《やつけえ》に成《な》りあんしたつけが、あれも今《いま》ぢや大層《たえそう》えゝ鹽梅《あんべい》でがしてない、四人目《よつたりめ》漸《やつ》とそんでも男《をとこ》でがすよ、お内儀《かみ》さんに云《や》あれた時《とき》にやわし等《ら》もはあ澁《しび》れえて居《ゐ》たんでがしたが、身上《しんしやう》もあん時《とき》かんぢやよくなるしね、兄弟中《きやうでえぢう》で今《いま》ぢやりせが一|番《ばん》だつて云《ゆ》つてつ處《とこ》なのせ、お内儀《かみ》さんあれなら大丈夫《でえぢよぶ》だからつて云《ゆつ》て呉《く》れあんしたつけが婿《むこ》も心底《しんてい》が善《よ》くつてね、爺婆《ぢゝばゝあ》げつて、わし等《ら》げ斯《か》うた物《もの》遣《よこ》しあんしたよ」老母《ばあさん》は待《ま》ち構《かま》へてゞも居《ゐ》たやうに小風呂敷《こぶろしき》の包《つゝみ》を解《と》いて手織《ており》のやうに見《み》える疎末《そまつ》な反物《たんもの》を出《だ》して手柄相《てがらさう》に見《み》せた。内儀《かみ》さんは仕方《しかた》ないといふ容子《ようす》で反物《たんもの》へ手《て》を掛《か》けて
「それでも孫《まご》抱《だ》きには行《い》つたかね」
「ほんに、わしや今日《けふ》らお内儀《
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