して居《ゐ》た。
「そりやさうさね、此《こ》の前《まへ》も私《わたし》の處《ところ》で救《すく》つて遣《や》つたのにそれに復《ま》たかうなんだから、まあ病氣《びやうき》さね此《これ》も、困《こま》つたもんだが然《しか》しあれを懲役《ちやうえき》に遣《や》つて見《み》た處《ところ》で子供等《こどもら》が泣《な》くばかりだからね、それにまあ本當《ほんたう》いへば一《ひと》つ村落《むら》に斯《か》うして居《ゐ》るんだから先《さき》が困《こま》り切《き》つてる内《うち》に勘辨《かんべん》して遣《や》つたと成《な》ると一|生《しやう》先《さき》は身《み》がひけて居《ゐ》る道理《だうり》だがそれが一|杯《ぱい》の罪《つみ》にでも落《おと》して見《み》ると、先《さき》では帳消《ちやうけ》しにでも成《な》つたやうな積《つもり》で居《ゐ》まいものでもなし、さうすると敵《かたき》一人《ひとり》拵《こしら》へて置《お》くやうなものだしね、他人《ひと》に叩《たゝ》かれたのでは眠《ねむ》れるが、叩《たゝ》いたのでは眠《ねむ》れないとさへいふんだから、何《なん》でも後腹《あとばら》の病《や》めない方《はう》が善《い》いやうだがどうだね」
「そんでもお内儀《かみ》さん、わしや卯平《うへい》ことみじめ見《み》せてんのが他人《ひと》のこつても忌々敷《いめえましい》んでさ、わしや血氣《けつき》の頃《ころ》から卯平《うへい》たあ棒組《ぼうぐみ》で仕事《しごと》もしたんでがすが、卯平《うへい》はあんでもあれが嚊等《かゝあら》育《そだ》つ時分《じぶん》の事《こと》なんぞ思《おも》つちや疎末《そまつ》にや成《な》んねえんでがすかんね、それお内儀《かみ》さん卯平《うへい》は幾《いく》つに成《な》りあんすね、わし等《ら》だらなあに、あゝた野郎《やらう》なんざあ槍《やり》でゝも何《なん》でも突《つ》つ刺《ぷ》しつちあんでがすがね」老人《ぢいさん》は憤慨《ふんがい》に堪《た》へぬやうに固《かた》めた拳《こぶし》を膝《ひざ》がしらへ當《あ》てゝいつた。
「尤《もつと》もさねそりや、それだが腹《はら》の立《た》つ時分《じぶん》は憎《にく》い奴《やつ》だと思《おも》つても後悔《こうくわい》する時《とき》が無《な》いともい[#「い」に「ママ」の注記]ひないしね、少《すこ》しのことで二|代《だい》も三|代《だい》も仲直《なかな
前へ 次へ
全478ページ中153ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング