》つたんでがすから」被害者《ひがいしや》は熱心《ねつしん》にいつた。勘次《かんじ》は其《その》時《とき》不安《ふあん》な態度《たいど》でぽつさりと自分《じぶん》の庭《には》に立《た》つた。彼《かれ》は既《すで》に巡査《じゆんさ》の檐下《のきした》に立《た》つてるのを見《み》て悚然《ぞつ》とした。
「勘次《かんじ》、此《こ》の竹《たけ》はどうしたんだな」巡査《じゆんさ》は横目《よこめ》に勘次《かんじ》を見《み》ていつた。
「わし此《こ》らあ、蜀黍《もろこし》伐《き》つて引《ひ》つ懸《か》けべと思《おも》つたんでがす」
「うむ、此《こ》の粒《つぶ》の零《こぼ》れたのはどうしたんだ、蜀黍《もろこし》なんだらう此《こ》れは」
「へえ、なに、わしが一攫《ひとつか》み引《ひ》つ扱《こ》いて來《き》て見《み》たの打棄《うつちや》つたんでがした」勘次《かんじ》は恁《か》ういつて蒼《あを》く成《な》つた。巡査《じゆんさ》は更《さら》に被害者《ひがいしや》に勘次《かんじ》の畑《はたけ》を案内《あんない》させた。悄然《せうぜん》として後《あと》に跟《つ》いて來《く》る勘次《かんじ》を要《えう》はないからと巡査《じゆんさ》は邪慳《じやけん》に叱《しか》つて逐《お》ひやつた。勘次《かんじ》の畑《はたけ》の蜀黍《もろこし》は被害者《ひがいしや》がいつたやうに、情《なさけ》ないやうな見窄《みすぼ》らしい穗《ほ》がさらりと立《た》つてそれでも其《そ》の恐怖心《きようふしん》に驅《か》られたといふやうに特有《もちまへ》な一|種《しゆ》の騷《さわ》がしい響《ひゞき》を立《た》てつゝあつた。穗《ほ》は一《ひと》つも伐《き》つてはなかつた。
「此《こ》れだからわし云《い》つたんでがす、ねえそれ、此《こ》の粒《つぶ》でがすかんね」被害者《ひがいしや》は威勢《ゐせい》が出《で》た。
「稻《いね》つ束《たば》擔《かつ》ぐんだつて、わし等《ら》口《くち》へ出《だ》しちや云《ゆ》はねえが、ちやんと知《し》つてんでがすから、さう云《い》つちや何《なん》だが其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》ことするもなあ、極《きま》つたやうなもんですかんね」被害者《ひがいしや》は更《さら》に手柄《てがら》でもしたやうにいつた。
「もう解《わか》つたから、それぢや自分《じぶん》の仕
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