》つて打《ぶ》つ違《ちが》ひに掛《か》けた。南《みなみ》へ低《ひく》くなつた日《ひ》が其《そ》れを覗《のぞ》くやうに射《さ》し掛《か》けた。
其《そ》の日《ひ》は孰《いづ》れもいひ合《あは》せたやうに畑《はたけ》へ出《で》た。一|日《にち》照《て》つたので畑《はたけ》は大抵《たいてい》ぱさ/\に乾《かわ》いて居《ゐ》る。蜀黍《もろこし》の穗《ほ》を伐《き》りに出《で》た村《むら》の一人《ひとり》は自分《じぶん》の畑《はたけ》がぞつくりと荒《あら》されて居《ゐ》るのを發見《はつけん》して驚《おどろ》いた。彼《かれ》は畑《はたけ》へ來《き》たなり穗《ほ》は一|本《ぽん》も伐《き》らないで其《そ》の儘《まゝ》駐在所《ちうざいしよ》へ驅《か》けつけた。巡査《じゆんさ》はそれでも直《す》ぐに官服《くわんぷく》を着《き》て被害者《ひがいしや》と一|緒《しよ》に現場《げんぢやう》へ來《き》て見《み》て伐《き》られた穗《ほ》の數《かず》を改《あらた》めて手帖《ててふ》へ止《と》めた。被害者《ひがいしや》が駐在所《ちうざいしよ》へ驅《か》けつける間《ま》に、畑《はたけ》の遠《とほ》くに離《はな》れ/″\に散《ち》らばつて居《ゐ》る百姓等《ひやくしやうら》は悉《ことごと》く其《そ》れを知《し》つた。被害者《ひがいしや》は途次《みちみち》大聲《おほごゑ》を出《だ》して呶鳴《どな》つて行《い》つたからである。なんでも昨夜《さくや》遲《おそ》く野《の》らから歸《かへ》るものが有《あ》つたといふがそれぢや其《そ》れに相違《さうゐ》ないだらうといふことが傳《つた》へられた。勘次《かんじ》も畑《はたけ》へ出《で》て居《ゐ》て騷《さわ》ぎに成《な》りはじめたのを知《し》つた。彼《かれ》は直《すぐ》に飛《と》んで歸《かへ》つて悉《ことごと》く蜀黍《もろこし》の穗《ほ》を外《はづ》して、そつと近《ちか》くの林《はやし》へ隱《かく》して筵《むしろ》を二|枚《まい》ばかり掩《おほ》うた。
「癖《くせ》になつから、みつしら懲《こ》りらかした方《はう》がえゝ、俺方《おらはう》は畑《はたけ》が五月蠅《うるさ》くつて本當《ほんたう》に仕《し》やうねえ」
「見《み》せしめに行《や》つ時《とき》にや、こつぴどく行《や》んなくつちやえかねえよ」
「村落《むら》の内《うち》ようく見《み》せえすりや直《すぐ》に分《わか》ら
前へ
次へ
全478ページ中147ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング