を保《たも》つのである。おつぎの笠蒲團《かさぶとん》は赤《あか》や黄《き》や青《あを》の小《ちひ》さな切《きれ》を聚《あつ》めて縫《ぬ》つたのであつた。然《しか》しおつぎの帶《おび》だけは古《ふる》かつた。餘所《よそ》の女《をんな》の子《こ》は大抵《たいてい》は綺麗《きれい》な赤《あか》い帶《おび》を締《し》めて、ぐるりと※[#「塞」の「土」に代えて「衣」、第3水準1−91−84]《から》げた衣物《きもの》の裾《すそ》は帶《おび》の結《むす》び目《め》の下《した》へ入《い》れて只管《ひたすら》に後姿《うしろすがた》を氣《き》にするのである。一杯《いつぱい》に青《あを》く茂《しげ》つた桑畑《くはばたけ》抔《など》に白《しろ》い大《おほ》きな菅笠《すげがさ》と赤《あか》い帶《おび》との後姿《うしろすがた》が、殊《こと》には空《そら》から投《な》げる強《つよ》い日光《につくわう》に反映《はんえい》して其《そ》の赤《あか》い帶《おび》が燃《も》えるやうに見《み》えたり、菅笠《すげがさ》が更《さら》に大《おほ》きく白《しろ》く光《ひか》つたりする時《とき》には有繋《さすが》に人《ひと》の目《め》を惹《ひ》かねばならぬ。彼等《かれら》の姿《すがた》は斯《か》くして遠《とほ》く隔《へだ》てゝ見《み》るべきものであるが然《しか》しながら其《そ》の近《ちか》づいた時《とき》でも、跳《は》ねあげられた笠《かさ》の後《うしろ》には兩頬《りやうほほ》へ垂《た》れてさうして其《そ》の黒《くろ》い絎紐《くけひも》で締《し》められた手拭《てぬぐひ》の隙間《すきま》から少《すこ》し亂《みだ》れた髮《かみ》が覗《のぞ》いて居《ゐ》て其處《そこ》にも一|種《しゆ》の風情《ふぜい》が發見《はつけん》されねばならぬ。
 雨《あめ》を含《ふく》んだ雲《くも》が時々《とき/″\》遮《さへぎ》るとはいへ、暑《あつ》い日《ひ》のもとに黄熟《くわうじゆく》した麥《むぎ》が刈《か》られた時《とき》畑《はたけ》はからりと成《な》つて境木《さかひぎ》に植《うゑ》られてある卯木《うつぎ》のびつしりと附《つ》いた白《しろ》い花《はな》が其處《そこ》にも此處《こゝ》にも目《め》に立《た》つて、俄《にはか》に濶々《ひろ/″\》としたことを感《かん》ずると共《とも》に支《さゝ》へるものが無《な》くなる丈《だけ》目《め》に入《い》る
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