みじか》く扱《こき》あげる。其《その》扱《こ》きあげられた肩《かた》は衣物《きもの》の皴《しわ》で少《すこ》し張《は》つて身體《からだ》を確乎《しつか》とさせて見《み》せる。現《あらは》れた腕《うで》には紺《こん》の手刺《てさし》が穿《うが》たれてある。漸《やうや》く暑《あつ》い日《ひ》を厭《いと》うておつぎは白《しろ》い菅笠《すげがさ》を戴《いたゞ》いた。白《しろ》い菅笠《すげがさ》は雨《あめ》に曝《さら》されゝばそれで破《やぶ》れて畢《しま》ふので、夏《なつ》のはじめには屹度《きつと》何處《どこ》でも新《あたら》しいのに換《かへ》られるのである。おつぎは勘次《かんじ》に引《ひ》かれて麥《むぎ》の畦間《うねま》を耕《たがや》した。鍬《くは》を入《い》れるのが手後《ておく》れになつた麥《むぎ》は穗《ほ》が白《しろ》く出《で》て居《ゐ》る。時々《とき/″\》立《た》つて鍬《くは》に附《つ》いた土《つち》を足《あし》の底《そこ》で扱《こ》きおろすおつぎの姿《すがた》がさや/\と微《かす》かな響《ひゞき》を立《た》てゝ動《うご》く白《しろ》い穗《ほ》の上《うへ》に見《み》える。餘所《よそ》を一寸《ちよつと》見《み》る度《たび》に大《おほ》きな菅笠《すげがさ》がぐるりと動《うご》く。菅笠《すげがさ》は日《ひ》を避《さ》けるのみではなく女《をんな》の爲《ため》には風情《ふぜい》ある飾《かざり》である。髮《かみ》には白《しろ》い手拭《てぬぐひ》を被《かぶ》つて笠《かさ》の竹骨《たけぼね》が其《そ》の髮《かみ》を抑《おさ》へる時《とき》に其處《そこ》には小《ちひ》さな比較的《ひかくてき》厚《あつ》い蒲團《ふとん》が置《お》かれてある。さういふ間隔《かんかく》を保《たも》つて菅笠《すげがさ》は前屈《まへかゞ》みに高《たか》く据《す》ゑられるのである。女等《をんなら》は皆《みな》少時《しばし》の休憩時間《きうけいじかん》にも汗《あせ》を拭《ぬぐ》ふには笠《かさ》をとつて地上《ちじやう》に置《お》く。一《ひと》つには紐《ひも》の汚《よご》れるのを厭《いと》うて屹度《きつと》倒《さかさ》にして裏《うら》を見《み》せるのである。さうして厚《あつ》い笠蒲團《かさぶとん》の赤《あか》い切《きれ》が丸《まる》く白《しろ》い笠《かさ》の中央《まんなか》に黒《くろ》い絎紐《くけひも》と調和《てうわ》
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