》ぐに燃《も》やして畢《しま》ふ程《ほど》下手《へた》な子《こ》であつた。それが横《よこ》にも竪《たて》にも大《おほ》きくなつて、肌膚《はだ》もつやゝかに見《み》えて髮《かみ》も長《なが》くなつた。おつぎの家《いへ》の後《うしろ》の崖《がけ》のやうに成《な》つた處《ところ》からは村《むら》のものが能《よ》く黄色《きいろ》な粘土《ねんど》を採《と》つた。髮《かみ》が黏《ねば》るやうになるとおつぎは其《そ》の粘土《ねんど》をこすりつけて、肌《はだ》ぬぎになつた儘《まゝ》黄色《きいろ》く染《そ》まつた頭《あたま》を井戸《ゐど》の側《そば》で洗《あら》ふのである。さうして其《そ》のふつさりとした髮《かみ》は二|度《ど》梳《す》く處《ところ》は三|度《ど》梳《す》くやうに成《な》つた。おつぎは又《また》髮《かみ》へつける胡麻《ごま》の油《あぶら》を元結《もとゆひ》で縛《しば》つた小《ちひ》さな罎《びん》へ入《い》れて大事《だいじ》に藏《しま》つて置《お》くのである。短《みじか》い期間《きかん》ではあるが針《はり》持《も》つやうになつてからは赤《あか》い襷《たすき》も絎《く》けた。半纏《はんてん》も洗濯《せんたく》した。どうにか自分《じぶん》の手《て》で仕上《しあ》げた身丈《みたけ》に足《た》りる衣物《きもの》を着《き》ておつぎは俄《にはか》に大人《おとな》びたやうに成《な》つた。田《た》や畑《はたけ》に出《で》る時《とき》にはまだ糊《のり》のぬけない半纏《はんてん》へ赤《あか》い襷《たすき》を肩《かた》から掛《か》けて勘次《かんじ》の後《うしろ》に跟《つ》いて行《ゆ》く。おつぎは仕事《しごと》にかゝる時《とき》には其《そ》の半纏《はんてん》はとつて木《き》の枝《えだ》へ懸《か》ける。おつぎの姿《すがた》は漸《やうや》く村《むら》の注目《ちうもく》に値《あたひ》した。
春《はる》の野《の》を飾《かざ》つて黄色《きいろ》な布《ぬの》を掩《おほ》うたやうな菜《な》の花《はな》も、春《はる》らしい雨《あめ》がちら/\と降《ふ》つて霜《しも》に燒《や》けたやうな葉《は》が滅切《めつきり》と青《あを》みを加《くは》へて來《き》た頃《ころ》は其《その》開《ひら》いた葉《は》の心部《しんぶ》には只《たゞ》僅《わづか》な突起《とつき》を見出《みいだ》す。然《しか》しそこには蕾《つぼみ》が明《
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