《には》へ落《おと》す事《こと》がある。鰌《どぜう》は乾《かわ》いた庭《には》の土《つち》にまぶれて苦《くる》しさうに動《うご》く。與吉《よきち》が抑《おさ》へようとする時《とき》鷄《にはとり》がひよつと來《き》て嘴《くちばし》で啄《つゝ》いて駈《か》けて行《い》つて畢《しま》ふ。他《た》の鷄《にはとり》がそれを追《お》ひ掛《か》ける。與吉《よきち》はさうすると又《また》一《ひと》しきり泣《な》くのである。
「汝《われ》あんまりうつかりしてつかんだわ」おつぎは笑《わら》ひながら、立《た》つてる與吉《よきち》の頭《あたま》を抱《だ》いてそれから手水盥《てうづだらひ》へ水《みづ》を汲《く》んで鰌《どぜう》を入《い》れて遣《や》る。與吉《よきち》は水《みづ》へ手《て》を入《い》れては鰌《どぜう》の騷《さわ》ぐのを見《み》て直《すぐ》に聲《こゑ》を立《た》てて笑《わら》ふ。おつぎはさうして置《お》いて泥《どろ》だらけの手足《てあし》を洗《あら》つてやる。
與吉《よきち》は時々《とき/″\》鰌《どぜう》を持《も》つて來《き》た。おつぎは衣物《きもの》の泥《どろ》になるのを叱《しか》りながらそれでも威勢《ゐせい》よく田圃《たんぼ》へ出《だ》してやつた。其《そ》の度《たび》に他《ほか》の子供等《こどもら》の後《うしろ》から
「泣《な》かさねえでよきことも連《つ》れでつてくろうな」といふおつぎの聲《こゑ》が追《お》ひ掛《か》けるのであつた。僅《わづか》な鰌《どぜう》は味噌汁《みそしる》へ入《い》れて箸《はし》で骨《ほね》を扱《しご》いて與吉《よきち》へやつた。自分《じぶん》では骨《ほね》と頭《あたま》とを暫《しばら》く口《くち》へ含《ふく》んでそれから捨《す》てた。
田《た》がそろ/\と耕《たがや》されるやうに成《なつ》た。子供等《こどもら》は又《また》一《ひと》つ/\の塊《かたまり》に耕《たがや》された田《た》を渡《わた》つて、其《その》塊《かたまり》の上《うへ》を辷《すべ》りながら越《こ》えながら、極《きは》めて小《ちひ》さい慈姑《くわゐ》のやうなゑぐの根《ね》をとつた。それは土地《とち》では訛《なま》つてゑごと喚《よ》ばれて居《ゐ》る。そこらの田《た》にはゑぐが多《おほ》いので秋《あき》の頃《ころ》に成《な》ると茂《しげ》つた稻《いね》の陰《かげ》に小《ちひ》さな白《しろ
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