《な》つた。それでも筍《たけのこ》の皮《かは》が竹《たけ》の幹《みき》に纏《まつは》つては横《よこ》たはつて居《ゐ》るやうに、與吉《よきち》がおつぎを懷《なつか》しがることに變《かは》りはなかつた。
 與吉《よきち》は近所《きんじよ》の子供《こども》と能《よ》く田圃《たんぼ》へ出《で》た。暖《あたゝ》かい日《ひ》には彼《かれ》は單衣《ひとへ》に換《かへ》て、袂《たもと》を後《うしろ》でぎつと縛《しば》つたり尻《しり》をぐるつと端折《はしよ》つたりして貰《もら》ふ間《ま》も待遠《まちどほ》で跳《は》ねて居《ゐ》る。
「堀《ほり》の側《そば》へは行《え》ぐんぢやねえぞ、衣物《きもの》汚《よご》すと聽《き》かねえぞ」おつぎがいふのを耳《みゝ》へも入《い》れないで小笊《こざる》を手《て》にして走《はし》つて行《ゆ》く。田圃《たんぼ》の榛《はん》の木《き》はだらけた花《はな》が落《お》ちて嫩葉《わかば》にはまだ少《すこ》し暇《ひま》があるので手持《てもち》なさ相《さう》に立《た》つて居《ゐ》る季節《きせつ》である。田《た》は僅《わづか》に濕《うるほ》ひを含《ふく》んで足《あし》の底《そこ》に暖味《あたゝかみ》を感《かん》ずる。耕《たがや》す人《ひと》はまだ下《お》り立《た》たぬ。白《しろ》つぽく乾《かわ》いた刈株《かりかぶ》の間《あひだ》には注意《ちうい》して見《み》れば處々《ところ/″\》に極《きは》めて小《ちひ》さな穴《あな》がある。子供等《こどもら》は其《そ》の穴《あな》を探《さが》して歩《ある》くのである。彼等《かれら》は小《ちひ》さな手《て》を粘《ねば》る土《つち》に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]込《さしこ》んでは兩手《りやうて》の力《ちから》を籠《こ》めて引《ひ》つ返《かへ》す。其處《そこ》には鰌《どぜう》がちよろ/\と跳返《はねかへ》りつゝ其《その》身《み》を慌《あわたゞ》しく動《うご》かして居《ゐ》る。さうすると彼等《かれら》は孰《いづれ》も聲《こゑ》を立《た》てゝ騷《さわ》ぎながら、其《そ》の小《ちひ》さな泥《どろ》だらけの手《て》で捉《とら》へようとしては遁《に》げられつゝ漸《やうや》くのことで笊《ざる》へ入《い》れる。鰌《どぜう》は其《そ》のこそつぱい笊《ざる》の中《なか》で暫《しばら》く其《そ》の身《み》を動《
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