の砂《すな》を掘《ほ》つて居《ゐ》るのであつた。西風《にしかぜ》が乾《かわ》かしてはさらさらと掃《は》いて居《ゐ》ても洲《す》には猶《なほ》幾《いく》らか波《なみ》の趾《あと》がついて居《ゐ》る。其《その》砂《すな》の中《なか》からは短《みじか》い木片《もくへん》が出《で》る。二三|寸《すん》から五六|寸《すん》位《ぐらゐ》な稀《まれ》には一|尺《しやく》位《ぐらゐ》なものも掘《ほ》り起《おこ》される。皆《みな》研《と》ぎ減《へら》したやうな木片《もくへん》のみである。人々《ひと/″\》は冷《つめ》たく成《な》つた手《て》を口《くち》へ當《あ》てゝ白《しろ》い暖《あたゝ》かい息《いき》を吹《ふ》つ掛《か》けながら一|心《しん》に先《さき》へ先《さき》へと掘《ほ》り起《おこ》しつゝ行《ゆ》く。
「どうするんだね」勘次《かんじ》は一人《ひとり》の側《そば》へ立《た》つて聞《き》いた。ひよつと首《くび》を擡《もた》げたのは婆《ばあ》さんであつた。婆《ばあ》さんは腰《こし》をのして強《つよ》い西風《にしかぜ》によろける足《あし》を踏《ふみ》しめて
「此《こ》れ干《ほ》して置《お》いて燃《も》すのさ」と穢《きたな》い白髮《しらが》と手拭《てぬぐひ》とを吹《ふ》かれながら目《め》を蹙《しか》めていつた。
「どうしても斯《か》う成《な》つちやべろ/\燃《も》えて飽氣《あつけ》なかんべえね」勘次《かんじ》は聞《き》いた。
「赤《あけ》え灰《はひ》に成《な》つてな、火《ひ》も弱《よ》えのさ、そんでも麁朶《そだ》買《か》あよりやえゝかんな、松麁朶《まつそだ》だちつたつてこつちの方《はう》へ來《き》ちや生《なま》で卅五|把《は》だの何《なん》だのつて、ちつちえ癖《くせ》にな、俺《お》らやうな婆《ばゝあ》でも十|把《ぱ》位《ぐれえ》は背負《しよ》へんだもの、近頃《ちかごろ》ぢや燃《もう》す物《もの》が一|番《ばん》不自由《ふじよう》で仕《し》やうねえのさな」婆《ばあ》さんはいつた。
「松麁朶《まつそだ》で卅五|把《は》ぢや相場《さうば》はさうでもねえが、商人《あきんど》がまるき直《なほ》すんだから小《ちひ》さくもなる筈《はず》だな」勘次《かんじ》は首《くび》を傾《かたむ》けていつた。
「さうだごつさらよなあ、そりやさうとおめえさん何處《どこ》だね」萬能《まんのう》を杖《つゑ》にして婆《ばあ
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