てから隣《となり》の主人《しゆじん》が林《はやし》を改良《かいりやう》する爲《ため》に雜木林《ざふきばやし》を一|旦《たん》開墾《かいこん》して畑《はたけ》にするといふことに成《な》つたので其《そ》の一|部《ぶ》を擔當《たんたう》した。彼《かれ》は小《ちひ》さな身體《からだ》である。然《しか》し彼《かれ》は重量《ぢうりやう》ある唐鍬《たうぐは》を振《ふ》り翳《かざ》して一|鍬《くは》毎《ごと》にぶつりと土《つち》をとつては後《うしろ》へそつと投《な》げつゝ進《すゝ》む。彼《かれ》は其《その》開墾《かいこん》の仕事《しごと》が上手《じやうず》で且《か》つ好《す》きである。其《そ》のきりつと緊《しま》つた身體《からだ》は小《ちひ》さいにしてもそれが各部《かくぶ》の平均《へいきん》を保《たも》つて唐鍬《たうぐは》を執《と》るときには彼《かれ》と唐鍬《たうぐは》とは唯《たゞ》一|體《たい》である。唐鍬《たうぐは》の廣《ひろ》い刄先《はさき》が木《き》の根《ね》に切《き》り込《こ》む時《とき》には彼《かれ》の身體《からだ》も一《ひと》つにぐざりと其《そ》の根《ね》を切《き》つて透《とほ》るかと思《おも》ふやうである。土《つち》を切《き》り起《おこ》すことの上手《じやうず》なのは彼《かれ》の天性《てんせい》である。それで彼《かれ》は遠《とほ》く利根川《とねがは》の工事《こうじ》へも行《い》つたのであつた。彼《かれ》は自分《じぶん》の伎倆《うで》を恃《たの》んで居《ゐ》る。彼《かれ》は以前《いぜん》からも少《すこ》しづつ開墾《かいこん》の仕事《しごと》をした。其《そ》の賃錢《ちんせん》によつて其《そ》の土地《とち》を深《ふか》くも淺《あさ》くも速《はや》くも遲《おそ》くも仕上《しあ》げることを知《し》つて居《ゐ》た。竹林《ちくりん》を開墾《かいこん》した時《とき》彼《かれ》は根《ね》の閉《と》ぢた儘《まゝ》一|坪《つぼ》の大《おほ》きさを只《たゞ》四《よ》つの塊《かたまり》に掘《ほ》り起《おこ》したことがある。それでも其《そ》の頃《ころ》まではさういふ仕事《しごと》が幾《いく》らも無《な》かつたので、其《そ》の賃錢《ちんせん》は仕事《しごと》を始《はじ》める時《とき》其《そ》の研《と》ぎ減《へ》らした唐鍬《たうぐは》の刄先《はさき》を打《う》たせる鍛冶《かぢ》の手間《てま》と、異
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