うた》ぐるならわしは預《あづ》かりますめえ」といつて拒絶《きよぜつ》した。
「まあ其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》ことゆはねえで折角《せつかく》のことに、勘次《かんじ》さんも惡《わる》い料簡《れうけん》でしたんでもなかんべえから」と宥《なだ》めても到頭《たうとう》卯平《うへい》は聽《き》かなかつた。
勘次《かんじ》はどうにか稼《かせ》ぎ出《だ》して歸《かへ》りたいと思《おも》つて一|生懸命《しやうけんめい》になつたがそれは僅《わづか》に生命《せいめい》を繋《つな》ぎ得《え》たに過《すぎ》ないのであつた。近所《きんじよ》の村落《むら》から行《い》つたものは凌《しの》ぎ切《き》れないで夜遁《よにげ》して畢《しま》つたものもあつた。それでも勘次《かんじ》は僅《わづか》に持《も》つて出《で》た財布《さいふ》の錢《ぜに》を減《へ》らさなかつたといふ丈《だけ》のことに繋《つな》ぎ止《と》めた。
「おとつゝあ居《ゐ》て呉《く》れたなあ」と媚《こ》びるやうにいつて自分《じぶん》の家《うち》の閾《しきゐ》を跨《また》いだ時《とき》は足《あし》に知覺《ちかく》のない程《ほど》に彼《かれ》は草臥《くたび》れて夜《よる》は闇《くら》くなつて居《ゐ》た。有繋《さすが》に二人《ふたり》の子《こ》は悦《よろこ》んで與吉《よきち》は勘次《かんじ》の手《て》に縋《すが》つた。卯平《うへい》がしたやうに鐵砲玉《てつぽうだま》が勘次《かんじ》の手《て》から出《で》ることゝ思《おも》つたらしかつた。勘次《かんじ》は苦《くる》しい懷《ふところ》から何《なに》も買《か》つては來《こ》なかつた。彼《かれ》は什※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》にしても無邪氣《むじやき》な子《こ》の爲《ため》に小《ちひ》さな菓子《くわし》の一袋《ひとふくろ》も持《も》つて來《こ》なかつたことを心《こゝろ》に悔《く》いた。
「まんま」というて小《ちひ》さな與吉《よきち》は勘次《かんじ》に求《もと》めた。
「そんぢや爺《ぢい》が砂糖《さたう》でも嘗《な》めろ」とおつぎは與吉《よきち》を抱《だい》て※[#「竹かんむり/(目+目)/隻」、第4水準2−83−82]棚《わくだな》の袋《ふくろ》をとつた。寡言《むくち》な卯平《うへい
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