木《き》のやうな大《おほ》きな常緑木《ときはぎ》の古葉《ふるは》をも一|時《じ》にからりと落《おと》させねば止《や》まないとする。
 此《こ》の時《とき》凡《すべ》ての樹木《じゆもく》やそれから冬季《とうき》の間《あひだ》にはぐつたりと地《ち》に附《つ》いて居《ゐ》た凡《すべ》ての雜草《ざつさう》が爪立《つまだて》して只《たゞ》空《そら》へ/\と暖《あたゝ》かな光《ひかり》を求《もと》めて止《や》まぬ。土《つち》がそれを凝然《ぢつ》と曳《ひ》きとめて放《はな》さない。それで一|切《さい》の草木《さうもく》は土《つち》と直角《ちよくかく》の度《ど》を保《たも》つて居《ゐ》る、冬季《とうき》の間《あひだ》は土《つち》と平行《へいかう》することを好《この》んで居《ゐ》た人《ひと》も鐵《てつ》の針《はり》が磁石《じしやく》に吸《す》はれる如《ごと》く土《つち》に直立《ちよくりつ》して各自《てんで》に手《て》に農具《のうぐ》を執《と》る。紺《こん》の股引《ももひき》を藁《わら》で括《くゝ》つて皆《みな》田《た》を耕《たがや》し始《はじ》める。水《みづ》が欲《ほ》しいと人《ひと》が思《おも》ふ時《とき》蛙《かへる》は一|齊《せい》に裂《さ》けるかと思《おも》ふ程《ほど》喉《のど》の袋《ふくろ》を膨脹《ばうちやう》させて身《み》を撼《ゆる》がしながら殊更《ことさら》に鳴《な》き立《た》てる。白《しろ》い※[#「糸+圭」、第3水準1−90−3]絲《すがいと》のやうな雨《あめ》は水《みづ》が田《た》に滿《み》つるまでは注《そゝ》いで又《また》注《そゝ》ぐ。鳴《な》くべき時《とき》に鳴《な》く爲《ため》にのみ生《うま》れて來《き》た蛙《かへる》は苅株《かりかぶ》を引《ひ》つ返《かへ》し/\働《はたら》いて居《ゐ》る人々《ひと/″\》の周圍《しうゐ》から足下《あしもと》から逼《せま》つて敏捷《びんせう》に其《そ》の手《て》を動《うご》かせ/\と促《うなが》して止《や》まぬ。蛙《かへる》がぴつたりと聲《こゑ》を呑《の》む時《とき》には日中《につちう》の暖《あたゝ》かさに人《ひと》もぐつたりと成《な》つて田圃《たんぼ》の短《みじか》い草《くさ》にごろりと横《よこ》に成《な》る。更《さら》に蛙《かへる》はひつそりと靜《しづ》かな夜《よる》になると如何《いか》に自分《じぶん》の聲《こゑ》が遠《と
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