い光《ひかり》を保《たも》ちながら蒼《あを》い空《そら》の下《した》に、まだ猶豫《たゆた》うて居《ゐ》る周圍《しうゐ》の林《はやし》を見《み》る。岬《みさき》のやうな形《かたち》に偃《は》うて居《ゐ》る水田《すゐでん》を抱《かゝ》へて周圍《しうゐ》の林《はやし》は漸《やうや》く其《そ》の本性《ほんしやう》のまに/\勝手《かつて》に白《しろ》つぽいのや赤《あか》つぽいのや、黄色《きいろ》つぽいのや種々《いろ/\》に茂《しげ》つて、それが氣《き》が付《つ》いた時《とき》に急《いそ》いで一《ひと》つの深《ふか》い緑《みどり》に成《な》るのである。雜木林《ざふきばやし》の其處《そこ》ら此處《こゝ》らに散在《さんざい》して居《ゐ》る開墾地《かいこんち》の麥《むぎ》もすつと首《くび》を出《だ》して、蠶豆《そらまめ》の花《はな》も可憐《かれん》な黒《くろ》い瞳《ひとみ》を聚《あつ》めて羞《はづ》かし相《さう》に葉《は》の間《あいだ》からこつそりと四|方《はう》を覗《のぞ》く。雜木林《ざふきばやし》の間《あひだ》には又《また》芒《すゝき》の硬直《かうちよく》な葉《は》が空《そら》を刺《さ》さうとして立《た》つ。其《その》麥《むぎ》や芒《すゝき》の下《した》に居《きよ》を求《もと》める雲雀《ひばり》が時々《とき/″\》空《そら》を占《し》めて春《はる》が深《ふ》けたと喚《よ》びかける。さうすると其《その》同族《どうぞく》の聲《こゑ》のみが空間《くうかん》を支配《しはい》して居可《ゐべ》き筈《はず》だと思《おも》つて居《ゐ》る蛙《かへる》は、其《その》囀《さへづ》る聲《こゑ》を壓《あつ》し去《さ》らうとして互《たがひ》の身體《からだ》を飛《と》び越《こ》え飛び越え鳴《な》き立《た》てるので小勢《こぜい》な雲雀《ひばり》はすつとおりて麥《むぎ》や芒《すゝき》の根《ね》に潜《ひそ》んで畢《しま》ふ。さうしては蛙《かへる》の鳴《な》かぬ日中《につちう》にのみ、之《これ》を仰《あふ》げば眩《まば》ゆさに堪《た》へぬやうに其《そ》の身《み》を遙《はるか》に煌《きら》めく日《ひ》の光《ひかり》の中《なか》に沒《ぼつ》して其《その》小《ちひ》さな咽《のど》の拗切《ちぎ》れるまでは劇《はげ》しく鳴《な》らさうとするのである。蛙《かへる》は愈《いよ/\》益《ます/\》鳴《な》き矜《ほこ》つて樫《かし》の
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