《ひた》して置《お》いて摺鉢《すりばち》ですつて、それをくつ/\と煮《に》て砂糖《さたう》を入《いれ》て嘗《な》めさせた。與吉《よきち》は一箸《ひとはし》嘗《な》めては舌鼓《したつゞみ》を打《う》つて其《その》小《ちひ》さな白《しろ》い齒《は》を出《だ》して、頭《あたま》を後《うしろ》へひつゝける程《ほど》身《み》を反《そ》らしておつぎの顏《かほ》を凝然《ぢつ》と見《み》ては甘《あま》えた聲《こゑ》を立《たて》て笑《わら》ふのである。與吉《よきち》はそれが欲《ほし》くなれば小《ちひ》さな手《て》で煤《すゝ》けた※[#「竹かんむり/(目+目)/隻」、第4水準2−83−82]棚《わくだな》を指《さ》した。其處《そこ》には彼《かれ》の好《この》む砂糖《さたう》の小《ちひ》さな袋《ふくろ》が載《の》せてあるのであつた。
おつぎは勘次《かんじ》が吩咐《いひつ》けて行《い》つた通《とほ》り桶《をけ》へ入《い》れてある米《こめ》と麥《むぎ》との交《ま》ぜたのを飯《めし》に炊《た》いて、芋《いも》と大根《だいこ》の汁《しる》を拵《こしら》へる外《ほか》どうといふ仕事《しごと》もなかつた。其《そ》の間《あひだ》には與吉《よきち》を背負《せお》つて林《はやし》の中《なか》を歩《ある》いて竹《たけ》の竿《さを》で作《つく》つた鍵《かぎ》の手《て》で枯枝《かれえだ》を採《と》つては麁朶《そだ》を束《たば》ねるのが務《つとめ》であつた。おつぎは麥藁《むぎわら》で田螺《たにし》のやうな形《かたち》に捻《よぢ》れた籠《かご》を作《つく》つてそれを與吉《よきち》へ持《も》たせた。卯平《うへい》はぶらりと出《で》て行《い》つては歸《かへ》りには駄菓子《だぐわし》を少《すこ》し袂《たもと》へ入《い》れて來《く》る。さうして卯平《うへい》は菓子《くわし》を持《も》つた右《みぎ》の手《て》を左《ひだり》の袖口《そでくち》から出《だ》して與吉《よきち》へ見《み》せる、與吉《よきち》はふら/\と漸《やうや》く歩《ある》いて行《い》つては、衝《つ》き當《あた》り相《さう》に卯平《うへい》へ捉《つかま》つて袂《たもと》を探《さが》す。さうすると菓子《くわし》を持《も》つた手《て》が更《さら》に卯平《うへい》の左《ひだり》の袂《たもと》から出《で》る。與吉《よきち》は危《あぶ》な相《さう》に卯平《うへい》の身體《
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