いさくこうじ》へ人《ひと》に任《まか》せて行《い》つたのである。
「只《たゞ》かうしてぐづ/\して居《ゐ》ても仕《し》やうあんめえな」お品《しな》は其《そ》の時《とき》も勘次《かんじ》の判斷《はんだん》を促《うなが》して見《み》た。
「俺《おれ》もさうゆはれても困《こま》つから、おめえ好《す》きにしてくろうよ」勘次《かんじ》は只《たゞ》恁《か》ういつた。
 勘次《かんじ》が去《さ》つてからお品《しな》は其《その》混雜《こんざつ》した然《しか》も寂《さび》しい世間《せけん》に交《まじ》つて遣瀬《やるせ》のないやうな心持《こゝろもち》がして到頭《たうとう》罪惡《ざいあく》を決行《けつかう》して畢《しま》つた。お品《しな》の腹《はら》は四|月《つき》であつた。其《そ》の頃《ころ》の腹《はら》が一|番《ばん》危險《きけん》だといはれて居《ゐ》る如《ごと》くお品《しな》はそれが原因《もと》で斃《たふ》れたのである。胎兒《たいじ》は四|月《つき》一|杯《ぱい》籠《こも》つたので兩性《りやうせい》が明《あきら》かに區別《くべつ》されて居《ゐ》た。小《ちひ》さい股《また》の間《あひだ》には飯粒程《めしつぶほど》の突起《とつき》があつた。お品《しな》は有繋《さすが》に惜《を》しい果敢《はか》ない心持《こゝろもち》がした。第《だい》一に事《こと》の發覺《はつかく》を畏《おそ》れた。それで一|旦《たん》は能《よ》く世間《せけん》の女《をんな》のするやうに床《ゆか》の下《した》に埋《うづ》めたのをお品《しな》は更《さら》に田《た》の端《はた》の牛胡頽子《うしぐみ》の側《そば》に襤褸《ぼろ》へくるんで埋《うづ》めたのである。
 お品《しな》は身體《からだ》の恢復《くわいふく》するまで凝然《ぢつ》として蒲團《ふとん》にくるまつて居《ゐ》れば或《あるひ》はよかつたかも知《し》れぬ。十|幾年前《いくねんまへ》には一|切《さい》を死《し》んだお袋《ふくろ》が處理《しより》してくれたのであつたが、今度《こんど》は勘次《かんじ》も居《ゐ》ないしでお品《しな》は生計《くらし》の心配《しんぱい》もしなくては居《ゐ》られなかつた。一《ひと》つにはそれを世間《せけん》に隱蔽《いんぺい》しようといふ念慮《ねんりよ》から知《し》らぬ容子《ようす》を粧《よそほ》ふ爲《ため》に強《し》ひても其《そ》の身《み》を動《うご
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