ぐら/\したんぢやなかつたつけゝえ」
「其《その》筈《はず》だんべな、後《あと》が心配《しんぺえ》で仕《し》やうねえ佛《ほとけ》はあゝえに動《いご》くんだつちぞおめえ」
「勘次《かんじ》さんこと欲《ほ》しくつて後《あと》へ残《のこ》してくのが辛《つれ》えんだごつさら」
「そんだがよ、餘《あんま》り欲《ほ》しがられつと遂《しめえ》にや迎《むけえ》に來《き》て連《つ》れ行《ゆ》かれつとよ」
「おゝ厭《や》だ俺《お》ら」
「連《つ》れてつてくろつちつたつておめえ等《ら》こた迎《むけえ》に來《く》るものもあんめえな」
口々《くちぐち》に恁《こ》んなことが遠慮《ゑんりよ》もなく反覆《くりかへ》された。間《あひだ》が少時《しばし》途切《とぎ》れた時《とき》
「お品《しな》さんも可惜《あつたら》命《いのち》をなあ」と一人《ひとり》が思《おも》ひ出《だ》したやうにいつた。
「本當《ほんたう》だ他人《ひと》のやらねえこつてもありやしめえし」他《た》の女房《にようばう》が相槌《あひづち》を打《う》つた。
「風邪《かぜ》引《ひ》いたなんてか、今度《こんだ》の風邪《かぜ》は強《つえ》えから起《お》きらんねえなんて、しらばつくれてな」
「死《し》ぬ者《もの》貧乏《びんばふ》なんだよ」
「そんだがお品《しな》さんは自分《じぶん》のがばかりぢやねえつちんぢやねえけ」
「さうだとよ、大《え》けえ聲《こゑ》ぢやゆはんねえが、五十錢《ごくわん》とか八十錢《はちくわん》とか取《と》つて他人《ひと》のがも行《や》つたんだとよ」
「八十錢《はちくわん》づゝも取《と》つちやおめえ、女《をんな》の手《て》ぢやたえしたもんだがな、今度《こんだ》自分《じぶん》で死《し》んちまあなんて、行《や》んねえこつたなあ」
「罪《つみ》作《つく》つた罰《ばつ》ぢやねえか」
遠慮《ゑんりよ》もなくそれからそれと移《うつる》のである。
「そんなことゆつて、今《いま》出《で》た佛《ほとけ》のことをおめえ等《ら》、とつゝかれつから見《み》ろよ」
他《た》の一人《ひとり》の女房《にようばう》がいつた時《とき》噺《はなし》が暫時《しばらく》途切《とぎ》れて靜《しづ》まつた。一人《ひとり》の女房《にようばう》が皿《さら》の大根《だいこ》を手《て》で撮《つま》んで口《くち》へ入《い》れた。
「さうえ處《とこ》他人《ひと》に見《み》られた
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