うに死體《したい》の下《した》から荒繩《あらなは》を廻《まは》して置《お》いて首筋《くびすぢ》の處《ところ》でぎつしりと括《くゝ》ることである。麁末《そまつ》な松板《まついた》で拵《こしら》へた出來合《できあひ》の棺桶《くわんをけ》はみり/\と鳴《な》つた。恁《か》ういふ無残《むざん》な扱《あつかひ》はどうしても他人《たにん》の手《て》に任《まか》せられねばならなかつた。板《いた》の儘《まゝ》ばら/\に成《な》つて居《ゐ》る棺臺《くわんだい》は買《か》つて來《き》てから近所《きんじよ》の手《て》で釘付《くぎづけ》にされた。其處《そこ》には淺《あさ》い箱《はこ》の倒《さかさ》にしたものが出來《でき》た。其《そ》の棺臺《くわんだい》の上《うへ》には死體《したい》を入《い》れた棺桶《くわんをけ》が載《の》せられた。
勘次《かんじ》は其《その》朝《あさ》未明《みめい》にそつと家《いへ》の後《うしろ》の楢《なら》の木《き》の間《あひだ》を田《た》の端《はし》へおりて境木《さかひぎ》の牛胡頽子《うしぐみ》の傍《そば》を注意《ちうい》して見《み》た。唐鍬《たうぐは》か何《なに》かで動《うご》かした土《つち》の跡《あと》が目《め》に附《つ》いた。勘次《かんじ》は手《て》にして行《い》つた草刈鎌《くさかりがま》でそく/\と土《つち》をつゝくやうにして掘《ほ》つた。さうして其《その》軟《やはら》かに成《な》つた土《つち》を手《て》で浚《さら》つた。襤褸《ぼろ》の包《つゝみ》が出《で》た。彼《かれ》は其處《そこ》に小《ちひ》さな一|塊肉《くわいにく》を發見《はつけん》したのである。勘次《かんじ》はそれを大事《だいじ》に懷《ふところ》へ入《い》れた。惡事《あくじ》の發覺《はつかく》でも恐《おそ》れるやうな容子《ようす》で彼《かれ》は周圍《あたり》を見廻《みまは》した。彼《かれ》は更《さら》に古《ふる》い油紙《あぶらがみ》で包《つゝ》んで片付《かたづ》けて置《お》いて、お品《しな》の死體《したい》が棺桶《くわんをけ》に入《い》れられた時《とき》彼《かれ》はそつとお品《しな》の懷《ふところ》に抱《いだ》かせた。お品《しな》の痩《や》せ切《き》つた手《て》が勘次《かんじ》のする儘《まゝ》にそれを確乎《しつか》と抱《だ》き締《し》めて、其《そ》の骨《ほね》ばかりの頬《ほゝ》が、ぴつたりと擦《す》
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