そりと酷《ひど》い窶《やつ》れやうをして居《ゐ》た。卯平《うへい》は只《たゞ》ぽつさりとしてそれを見《み》て居《ゐ》た。死體《したい》は復《また》其《そ》の穢《きたな》い夜具《やぐ》へ横《よこた》へられた。盥《たらひ》の汚《けが》れた微温湯《ぬるまゆ》は簀《す》の子《こ》の上《うへ》から土《つち》に注《そゝ》がれた。さうして其《そ》の沾《ぬ》れた簀《す》の子《こ》には捲《ま》くつた筵《むしろ》が又《また》敷《し》かれた。朝《あさ》から雨戸《あまど》は開《あ》け放《はな》たれて歩《ある》けばぎし/\と鳴《な》る簀《す》の子《こ》の上《うへ》の筵《むしろ》は草箒《くさばうき》で掃《は》かれた。さうして東隣《ひがしどなり》から借《か》りて來《き》た蓙《ござ》が五六|枚《まい》敷《し》かれた。それから土地《とち》の習慣《しふくわん》で勘次《かんじ》は淨《きよ》めてやつたお品《しな》の死體《したい》は一|切《さい》を近所《きんじよ》の手《て》に任《まか》せた。
 近所《きんじよ》の女房等《にようばうら》は一|反《たん》の晒木綿《さらしもめん》を半分《はんぶん》切《きつ》てそれで形《かた》ばかりの短《みじか》い經帷子《きやうかたびら》と死相《しさう》を隱《かく》す頭巾《づきん》とふんごみとを縫《ぬ》つてそれを着《き》せた。ふんごみは只《たゞ》三|角《かく》にして足袋《たび》の代《かはり》に爪先《つまさき》へ穿《は》かせるのであつた。脚絆《きやはん》は切《きれ》の儘《まゝ》麻《あさ》で足《あし》へ括《くゝ》り附《つ》けた。此《こ》れも其《そ》の木綿《もめん》で縫《ぬ》つた頭陀袋《づだぶくろ》を首《くび》から懸《か》けさせて三|途《づ》の川《かは》の渡錢《わたしせん》だといふ六|文《もん》の錢《ぜに》を入《い》れてやつた。髮《かみ》は麻《あさ》で結《むす》んで白櫛《しろぐし》を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《さ》して遣《や》つた。お品《しな》の硬着《かうちやく》した身體《からだ》は曲《ま》げて立膝《たてひざ》にして棺桶《くわんをけ》へ入《い》れられた。首《くび》が葢《ふた》に觸《さは》るので骨《ほね》の挫《くぢ》けるまで抑《おさ》へつけられてすくみが掛《か》けられた。すくみといふのは蹙《ちゞ》めた儘《まゝ》の形《かたち》が保《たも》たれるや
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