もておもてを掩へればあな煩はし我が手なれども

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手紙のはしには必ず癒えよと人のいひこすことのしみ/″\とうれしけれど
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ひたすらに病癒えなとおもへども悲しきときは飯減りにけり

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窓外を行く人を見るに、既に夏の衣にかへたるがおほし
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咳き入れば苦しかりけり暫くは襲ねて居らむ單衣欲しけど

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藁蒲團に身をいたはることも七十日にあまりたれど、自らいくばくも快きをおぼえず
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頬の肉落ちぬと人の驚くに落ちけるかもとさすりても見し

いぶせきに明日は剃らなと思ひつゝ髭の剃杭のびにけるかも

     二

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物質上の損失はおほくは同情者の手によりて容易に補給せらるべきも、精神上の缺陷は同情者の手によりて凡て直ちに解決せらるべきものなるべからず、如何に深厚の同情と雖も其効果は概ね甚だ僅少なるべきなり、然れども其効果の僅少なるが爲めに遂に人間至高の價値を没却すべからず
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いさゝかのことなりながら痒きとき身にし
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