々々と呼ぶ聲もすゞしく朝の嗽ひせりけり
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三十日、雨つめたし、百穗氏の秋海棠を描きたる葉書とりいだしてみる、庭にはじめてさけりとあり
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うなだれし秋海棠にふる雨はいたくはふらず只白くあれな
いさゝかは肌はひゆとも單衣きて秋海棠はみるべかるらし
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ゆくりなくも宿のせまき庭なる朝顔の垣をのぞきみて
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秋雨のひねもすふりて夕されば朝顔の花萎まざりけり
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十月一日、庭のあさがほけさは一つも花をつけず
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朝顔の垣はむなしき秋雨をわびつゝけふも復たいねてあらむ
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病院の門を入りて懷しきは、只※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]頭の花のみなり
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※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]頭は冷たき秋の日にはえていよ/\赤く冴えにけるかも
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十日、再び秋草のたよりいたる、萎えたるこゝろしばらくは慰む
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刈萱と秋海棠とまじりぬと未だはみねどかなひたるべし
わびしくも痩せたる草の刈萱は秋海棠の雨ながらみむ
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日ごろは熱たかければ、日ねもす蒲團引き被りてのみ苦しみける程に、もとより入浴することもなかりけるが、たまたま十八日の朝まだき、まださくやらむと朝顔のあはれに小さくふゝみたる裏戸をあけていでゆく
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浴みして手拭ひゆる朝寒みまだ蕾なり其のあさがほは
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小さき蚊帳のうちに獨りさびしく身を横たふるは常のならはしにして、また我が好むところなるに、ましてこゝは藪蚊のおほきところなれば只いつまでも吊らせてありけるが
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幾夜さを蚊帳に別れてながき夜のほのかに愁し雨のふる夜は
古蚊帳のひさしく吊りし綻びもなか/\いまは懷しみこそ
三
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吸入室の窓のもとに、一坪ばかり庭の砂掻きよせて苗を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]してありけるが、夏の日にも枯れず、秋もたけて漸く一尺餘りになりたればいまは日ごとに目につくやうになりけるを、十一月十一日、折から時雨の空掻きくもりて騷がしき
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