に
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はら/\と松葉吹きこぼす狹庭には皆白菊の花さきにけり
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次の日、庭は熊手もてくまなく掻きはらはれたれど
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白菊のまばら/\はおもしろくこぼれ松葉を砂のへに敷く
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十四日、夜にいりて雨やまざれど俄かにおもひ立つことありて久保博士をおとなふ
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しめやかに雨の淺夜を籠ながら山茶花の花こぼれ居にけり
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俄かに九度近くのぼりたる熱さむることもなく、三十日ばかりの間は只引きこもりてありければ、常は季節に疎しともおもはざりける身の山茶花の花をみることもはじめてなればいま更のごとく驚かれぬるに
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吸物にいさゝか泛けし柚子の皮の黄に染みたるも久しかりけり
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幾時なるらむ、めざめて雨のはげしきおとをきく
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松の葉は復たこぼるらし小夜ふけて廂に雨の當るをきけば
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十五日、ふとかの十坪に足らぬ裏の庭をみおろすに、そこにもわかき木の一もとはありて
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ひそやかに下枝ばかりにひらきたる山茶花白くこぼれたり見ゆ
山茶花はさけばすなはちこぼれつゝ幾ばく久にあらむとすらむ
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十六日、このごろ熱低くなりたれば、始めて人をたづねていづ、空晴れて快し
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不知火の國のさかひにうるはしき背振の山は暖かに見ゆ
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ひとの垣に添うてゆく
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山茶花はあまたも散れば土にして白きをみむに垣内《かきち》には立つ
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雀の好む木なれば必ずさへずりかはすをみる
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山茶花に雀はすだくときにだに姿うつくしくあれなとぞおもふ
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わかき女のさげもてゆくものを
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手に持てる茶の木の枝に括られて黄に凝りたる草の花何
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十九日、復たいでありく、朱欒の青きがそここゝの店に置かれてまだ一つ二つは殘りたらむとおもふに、梢に垂れたるは皆既にいろづきたるにおどろく
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竿に釣りて朱欒《ざぼん》のうへの白足袋は乾きたるらし動きつゝみゆ
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