かり足駄の齒にわびしけれど心ゆくばかりのながめせんとてまたいでありく
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鉈豆のもの/\しくも擡げたるふた葉ひらきて雨はふりつぐ

車前草《おほばこ》は畑のこみちに槍立てゝ雨のふる日は行きがてぬかも

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庭の枇杷ことしばかりはめづらしく果おほし
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枇杷の木にみじかき梯子かゝれどもとるとはかけじいまだ青きに

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雨をよろこぶこゝろを
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蕗の葉の雨をよろしみ立ちぬれて聽かなともへど身をいたはりぬ

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我が草苺を好むこと度を知らずともいひつべし、未だ甚だしく體力の衰へざりし程は一度に五合にのぼらざれば胸の爽かなるを覺えず、然かも日に幾たびとなくこれをくりかへして飽くこともなかりき、さるをことしは家を離れて久しくなりけるに市場に出でたるは嘗て手にだも觸れむとせざれば、日頃はさびしくあかしけるが、いまはうれしきは門の畑なり
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たらちねは笊もていゆく草苺赤きをつむがおもしろきとて

幾度か雨にもいでゝ苺つむ母がおよびは爪紅をせり

草苺洗ひもてれば紅解けて皿の底には水たまりけり

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三日微雨、人にあふこといできにたれば車に幌かけて出づ、鬼怒川をわたる
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みやこぐさ更紗染めたる草むしろしづかにぬれて霧雨ぞふる

口をもて霧吹くよりもこまかなる雨に薊の花はぬれけり

鬼怒川の土手の小草に交じりたる木賊の上に雨晴れむとす

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四日、晴れて俄に暑し、風邪引くことのおそろしくてためらひ居けるを、いまはなか/\に心も落ちゐたれば單衣になる
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とりいでゝ肌に冷たきたまゆらはひとへの衣つく/″\とうれし

くつろぐと足を外に向けころぶせば裾より涼し只そよ/\と

さやげども麥稈帽子とばぬ程みむなみ吹きて外はすが/\し[#「すが/\し」は底本では「すが/″\し」]

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暑きころになればいつとても痩せゆくが常ながら、ことしはまして胸のあたり骨あらはなれど、單衣の袂かぜにふくらみてけふは身の衰へをおぼえず、かゝることいくばくもえつゞくべきにあらざれど猶獨り心に快からずしもあらず
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單衣きてこゝ
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