やらむ

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十九日、歸郷の途次辻村にて
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木欒樹《むくろじ》の花散る蔭に引き据ゑし馬が打ち振る汗の鬣

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余が起臥する一室の檐に合歡の木が一株ある、花の美しいのは蕋である、ちゞれ毛のやうなのが三時頃には餘つ程延び出して葉の眠る頃にはさき切る、それ故賑かなのは夕暮である、
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蚊帳越しにあさ/\うれし一枝は廂のしたにそよぐ合歡の木

柔かく茂り撓める合歡の木の枝に止りて羽を干す燕

水掛けて青草燻ゆる蚊やり火のいぶせきさまに萎む合歡の葉

赤糸の染分け房を髻華《うず》に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]す合歡の少女は常少女かも

爽かに青帷子の袂ゆる合歡の處女の蔭の涼しさ

合歡の木は夕粧ひの向かしきに何を面なみしをれて見ゆらむ

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戯れに禿頭の人におくる
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つや/\に少なき頭泣かむより糊つけ植ゑよ唐黍の毛を

おもしろの髪は唐黍《たうきび》白髪の老い行く時に黒しといふもの

唐黍の糊つけ髪に夕立の倚る樹もなく
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