深しちふ岩《いは》白根山

藤棚はふぢの青葉のしげきより蚊の潛むらむいたき藪蚊ら

梧桐の葉を打ち搖りて降る雨にそよろはひ渡る青蛙一つ

葦村はいまだ繁らず榛の木の青葉がくれに葭|剖《きり》の鳴く

    青草集
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六月廿八日常陸國平潟の港に到る、廿九日近傍の岡を歩く、畑がある、麥を燒いて居る、束へ火をつけるとめろ/\消えて穗先がぼろ/\落ちる、青い烟が所々に騰る、これは收納がはやいからするのだ相である、
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殻竿《からさを》にとゞと打つべき麥の穗を此の畑人は火に燒きてとる

長濱の搗布《かちめ》燒く女は五月雨の雨間の岡に麥の穗を燒く

穗をやきてさながら捨つる麥束に茨が花も青草も燒けぬ

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七月五日岩城の平の町赤井嶽に登る山上の寺へとまる、六日下山
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赤井嶽とざせる雲の深谷に相呼ぶらしき山鳥の聲

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七日、平の町より平潟の港へかへる途上磐城關田の濱を過ぎて
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こませ曳く船が帆掛けて浮く浦のいくりに立つは何を釣る人

汐干潟磯のいくりに釣る人は
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